朝井まかて『グッドバイ』。

これは長崎の油商・大浦屋の女あるじ、お希以――のちの大浦慶が主人公。幕末ものの大河ドラマ、例えば、西郷隆盛だとか、坂本龍馬だとかが主人公のとき、グラバー邸などで西洋人の商人とともに描かれるので、名前だけは知っている。

 

黒船来航騒ぎで世情が揺れる中、無鉄砲にも異国との茶葉交易に乗り出し、一度は巨富を築くが、その先に大きな陥穽が待ち受けていた――。実在の商人・大浦慶の生涯を円熟の名手が描いた、傑作歴史小説。

 

 

この年ほどの間に文庫本を読み始めてから“朝井まかて”をコンスタントに読んできた。最初は『恋歌』、直木賞受賞作ではなかったか。それから著者の執筆順序と無関係にアトランダムに読んできた。執筆順に並べれば、

『ちゃんちゃら』

『すかたん』

『先生のお庭番』

『恋歌』

『阿蘭陀西鶴』

『藪医ふらふこ』

『眩(くらら)』

『最悪の将軍』

『残り者』

『落陽』

『銀の猫』。

ついこの前読んだのが『ボタニカ』、そして『類』。

新刊が出るとやっぱり朝井まかてに手を出してしまう。

 

 

さて、大浦慶を描く『グッドバイ』。

これは予想を超える面白さであった。

幕末の時代のうねりや躍動する人々のエネルギーが満ちている。幕末の志士や西洋人の商人などとの交易を通して、幕末の歴史をグローバルに知ることになる。なによりも大浦慶の波乱万丈の生涯が読むものを勇気づけてくれる。清々しい。

 

ちなみに文庫本の栞は、朝日文庫。記されているのは、

「ポケット文化の最前線」。

この小説は、そうなのかもしれない。