事件はなぜ起こったのか。殺されたのは「誰」で、いったい「誰」が殺人者であったのか――。東京荒川区の超高層マンションで凄惨な殺人事件が起きた。室内には中年男女と老女の惨殺体。そして、ベランダから転落した若い男。ところが、四人の死体は、本来そこに住んでいるはずの家族ではなかった・・・・・・。ドキュメンタリー手法で現代社会ならではの悲劇を浮き彫りにする、直木賞受賞作。
読み始めは、なにか凡庸なミステリー小説のように思う。しかしながら、事件に係わる人物の証言を、一つ、二つと追っていくうちに、なるほどこの小説は時代や世相というものを写し取っており、家族の在り様をも浮き彫りにしている。ああ、これは優れた小説なのかもしれないと思い始める。
数少ないけど、何冊か読んだことのある宮部みゆきは、過剰なほどに情報をこれでもかと積み重ねていく印象がある。丁寧に紡がれていく物語の焦点が少しずつ絞られていくと、これは身近なところで起きている事件であり、決して特殊な事件ではなく、どこにでもある、誰にでも起きる事柄だと思い始める。そうしていつしか物語に引き込まれている。
捜査に関する克明な情報が積み重ねられていくので、いささかうんざりするほどであるが、これが宮部みゆきの小説手法なのだ。そう思い先を急がないようステップを一段ずつ積み重ねていく。事件の真相がどこにあるのか。やがて濃密にして克明な事実が明らかになっていく。読み終えたとき、これは重厚な小説だと思った。