中華そば屋を営む62歳の康平は、妻を急病で失って以来、長い間休業していた。だが、ひきこもりのような生活を送る中で偶然、妻宛の古い葉書を見つける。30年前「知らない大学生から届いた」と言っていた妻は、なぜその葉書をとっておいたのか。差出人は何者で、描かれた地図は何を意味するのか。妻の知られざる過去を追い、康平は初めての一人旅へ出る――。人生の価値を照らし出す感動作。
宇城シティーモール内蔦屋書店を歩いていると、宮本輝の文庫本が平積みになっている。手にとったのが『灯台からの響き』。このところ時代小説のみを読んでいるので、「あっ、宮本輝だ」という訳。60歳過ぎの登場人物たち、東京の商店街の人々の物語。宮本輝の小説がなんだか懐かしいというか、親しみを感じるというか、しみじみとした人情噺に自然と物語に溶け込んでいく。
ま、どうでもいいようなことだけど、ちょっと小説の一部を抜粋してみると・・・。
「日頃、よく歩く人は意識していないだろうけど、最近の俺は家と店との三十メートルほどしか往復しないし、買い物といったってトシオの店に行くくらいだろう?だから、足の裏の筋肉についてなんて考えもしなかったんだ。年寄りが転ぶのは、足裏と足首の周りの筋肉が衰えているからだよ。とくに足裏の筋肉の存在は、舗装された平らな道では感じないんだ。こんどの旅で、俺はそれを学んだよ」
呆れ顔で父親を見ていた朱美は、
「房総半島を一周して、そんなことを学んだだけ?」
と言って笑った。
いや、ホントにそうなのだ。ブランクがあって山歩きしてみると、足の裏の筋肉が痛くて悲鳴をあげるのだ。これは年寄りでなければわからないのかもしれないなぁ。

