白村江の戦いで日本と唐の国交が断絶してから約四十年。時の権力者である藤原不比等は遣唐使船の復活を決断し、かつて長安で留学僧として学んだ粟田真人に執節使の任に命じる。真人に託された密命ともいうべき特別な任務。それは天皇家の覇権争いと帝の立場に関わる物だった――。失敗すれば命はない。揺るぎない信念と、任務に殉じる強い心で艱難を乗り越える遣唐使の姿を描く歴史巨編。
安部龍太郎を読むのは久しぶり。1年ほど前、『家康』シリーズを楽しみに読んでいた。そして併せて古代小説を読んでもいた。安部龍太郎の小説もあり、何冊かを読んでいる。この『迷宮の月』もその位置づけだと、手にとった。
藤原不比等、飛鳥時代から奈良時代初期。このときの遣唐使派遣については他の小説でも読んでいる。1年ほど前、同じ安部龍太郎『平城京』を読んでいるが、その主人公が阿部船人で、遣唐使として粟田真人と行動を共にしている。
さて、エンターテイメントの色濃く、すぐに引き込まれてしまった。すると血沸き肉躍る冒険活劇が展開される。先を読み進められずにはおれない。そうして最後まで読み終えたとき、満足感に包まれる。この物語の、安部龍太郎の他の物語とつながりが確かめられる。

