裏表紙
1966年ひのえうまの同じ日に生まれた留津とルツ。パラレルワールドに生きるふたりの女性は、いたかもしれないもうひとりの「自分」。進学、就職、恋愛、結婚、出産・・・・・・無数の分岐点に、騙し絵のようにかかわってくる同じ名前を持つ恋人や友人。昏い森に迷い込み、道を見失い、惑い、選びながら進む先にあるものは。
『センセイの鞄』を読んで、川上弘美をいたく好きになったものの、他の本を読んでみると、全く歯が立たないというか、読めなかった。そんなときふと手にしたのが、この『森へ行きましょう』。
恐る恐るページを開くと、留津とルツの物語が交互に紡がれている。
「はぁ~、なんじゃこりゃ~」
という第一印象だったが、始めの部分を無視して、留津とルツが小学生になったときから読んでいると、いつの間にか本の中に引き込まれた。
引き込まれてはいったのだが、なんだか調子が狂うというか、カチッと歯車がかみ合うことなく、少しずつずれていく感じ。
字の異なる同じ名前の人物があちこちに登場し始めると、同一人物のようでありながら、似ているようでありながらなんか違う。パラレルワールドだとか、鏡の中の世界だとか、現実と思いながら読んでいる世界と妄想のようなアナザーワールドとの境目が溶けてしまい判然としなくなる。
だけど、それぞれの物語はそれぞれに面白いので、ともかく最後まで読んでみよう。そんな風に思っていると、話がいくつもに分裂し、枝分かれしていく。
そうこうしているうちに読了。
まぁ、なんというか、「センセイの鞄」のように「ああ、面白かった」というわけにはいかなかったけれど、本を放り投げることもしなかった。おそらくは緻密に計算され尽くした論理的な、知的な小説なのだ。