上巻の裏表紙

足利尊氏が幕府を開いてすでに百年、交互に天皇を立てるとの誓約は破られ、南北朝合体後も逼塞を余儀なくされた南朝方は、秘かに再起を期していた。北畠宗十郎は、その切り札となる後醍醐天皇の能面入手を命じられる。一方、その秘密を知る将軍足利義教は、朝比奈範冬に能面奪取の密命を下す。幕府を崩壊させるほどの力が込められた能面の秘密とは?死闘の幕が開く!闇の後南町時代を壮大なスケールで描いた歴史伝奇小説の傑作。

 

 

安部龍太郎3作目で、前に読んだ『黄金海流』に続く小説。

 

後南朝時代。そんな時代があることすら知らなかった。室町時代、足利幕府第6代将軍義教(よしのり)も知らなかった。義教は3代将軍義満の子である。その頃までは、まだ足利幕府の支配力も強かったんだなぁ。

 

一方、後醍醐天皇のとき、朝廷は南北に分かれたが、南朝方は逼塞を余儀なくされたままである。そういう時代を背景にして、室町幕府方と南朝方との死闘が始まる。

 

南朝方は北畠宗十郎、そして北朝方は朝比奈範冬を軸にして、交互に物語が紡がれる。北畠宗十郎は縁あって知り合った真矢、朝比奈範冬は許嫁であった清姫。それぞれが複雑に絡み合いながら、しかも関係がねじれていく。

 

歴史を知る楽しみもあり、恋愛小説の側面もあり、なかなかに興味深い。

 

 

下巻の裏表紙

かつて今川了俊を謀叛に導いた黒色尉(こくしきじょう)の面は将軍足利義教の手に落ちた。白色尉(はくしきじょう)の面に操られた鎌倉公方足利持氏の反乱も義教に鎮圧される。しかし、恐怖政治を強める義教にも苛烈な運命が待ち受けていた。次第に明らかにされる能面の秘密、そして後醍醐帝を怨念へと駆り立てた太古の記憶とは。民衆の決起はなにを意味するのか?日本史から抹殺された後南朝時代に大胆な解釈を加え、「天皇とは何か」に挑んだ渾身の大河絵巻!

 

物語の中心に据えられるのは、後醍醐天皇の能面に秘められた謎と、後醍醐天皇が成し遂げようとした理想とは何か。太古の昔から現在に至るまで続く、天皇とは何か。

 

ま、そのようなテーマが据えられているけれど、それよりも読み手としては、朝比奈範冬の許嫁であった清姫の変貌ぶりが圧巻。また、北畠宗十郎と知り合った真矢との絡み合いなどが興味深く、常に気になるところであった。

 

エンターテイメント小説としてすこぶる面白く読ませてもらった。