「汐の恋人」
渋紙に包まれた黒漆塗りの小箱が、九州、博多の津に打ち上げられた。秀吉の祐筆役山中山城の守長俊が書状をあらためると、肥前佐嘉の大名竜造寺政家の家臣瀬川采女の妻である菊子が、戦地にいる夫へ宛てた手紙だとわかった。菊子は、肥後の国芦北郡佐敷で一揆をおこした島津義久の家臣である梅北国兼の妻爽子の幼なじみであった。
「氷雨降る」
九州の島原半島に四万石を領する有馬晴信に輿入れした京の公家中山親綱の娘、キリシタンとしての洗礼名ジュスタの物語。ジュスタの輿入れはキリシタン大名小西行長の紹介によるものであった。
「花の陰」
細川忠興の嫡男忠隆と前田利家の娘千代の物語。
「ぎんぎんじょ」
九州肥前の大名鍋島直茂の継母慶誾尼が亡くなった。佐嘉城で慶誾尼の末期を看取ったのは、直茂の正室彦鶴である。鍋島家の物語。
「くのないように」
加藤清正の娘八十姫は、徳川家康の十男で駿府城主の頼宜に嫁す。八十姫と頼宜の物語。
「牡丹咲くころ」
伊達忠宗の娘鍋姫が立花忠茂に嫁した。原田甲斐による伊達騒動の裏話。
「天草の賦」
島原の乱における黒田忠之の物語。天草四郎の裏話。
いずれも九州に縁を持つ大名家の話であり、興味深い。有名な祖を持つが、名前も知らないような人物であるが、それぞれの生き様が己の信念に基づくもので、その行動が清々しい。


