傾山(かたむきやま)本峰から前峰へ、そして来た道を引き返すことにした。登るときよりも下るときになって「こんなに急傾斜だったのか」と知る。足を踏み外さないよう下り始めると、慎重になればなるほど足首や足の筋肉に負担がかかるものである。なんとか下り終えると、再びなだらかなアップダウンを繰り返す。
そこで1つの異変が起きた。「お花畑へ」と道を外れたK子さんが動けなくなってしまった。両足がけいれんを起こしたのだ。武揚ドクターがバイタル・チェックをし、服薬と水分補給、H事務局長が足をさするマッサージを施して回復を待った。
先頭を歩いていたUSさんがその様子を見に行き、情報を全員に伝達する。残った者がじっと動かずにいると、日の陰りと共に冷気が山に下りてきたようで寒気を感じ始めたので、ゆっくりと先への道を歩き始めた。
やがて九折越(つづらこし)に着こうかとするとき、後ろでバサッという音とともに2つ目の異変が起きた。何かに躓いたHRさんが3、4m空を飛んだのだ。両手に持っていたステッキを後方に残し、飛んだ瞬間に両足の筋肉を収縮させたために痙攣を起こしてしまい、胸と顔を地面に衝突させた。こちらもしばらく動けない状態になった。
K子さんは槍ヶ岳から登山を始めたような女性であり、HRさんも100名山のうち90くらいの山を歩いてきた人である。しかし、ベテランであっても山では何が起きるか予測のつかない事態に陥ることがあるのだ。場所が悪かったり打ち所が悪かったりすれば、どのような事態になったか分からない。
九折越(つづらこし)に全員が集まったときには顔色が優れなかった2人とも、ある程度回復して登山口まで自力で下山することができた。登山口から8キロ先に駐車した場所までどうやって移動するかも難問であったが、とにかく“ラブ4”がピストン輸送するしかなかった。車に乗ることができない者はひたすら歩くのみ。
かくして傾山下見登山はとんでもないことなってしまい、結論として、定例登山計画案から外すしかないのではないかという方向に話が進んでいる。しかしながら、純粋に下見としてはこれほど収穫の多かったことはない、と誰かが言った。山としては素晴らしい。これは間違いない。(オシマイ)






