九重山の御池は完全に凍っていた。
どこかで氷が割れてドボンと池に落ちるのではないか。
などという心配は杞憂である。
池に足を踏み入れると、バチッ!という音が聞こえた。
すでに凍っている池が気温のさらなる低下により盛り上がって、どこかで弾けるように割れ目ができるときの音か。
諏訪湖御神渡りのようなものか。
ガスに覆われ、10mほど先の湖面しか見えない。
周囲の山は全く見えない。
アイゼンを装着しようとする者は誰もいなくて、登山靴のままでそろりそろりと対岸まで湖面を渡った。
昨年9月半ばに練習登山で九重に来て御池の畔を歩いたが、そのとき「凍った御池を歩く」というプランができたのだった。
池の中ほどを歩く分にはさほどの苦労もなく歩くことができたのだが、池を渡りきって地面に上がろうとする、その間際の氷がつるんつるんであり、変な隆起があり平らでもない。「あ~危ないな」と思ったとき、思った通りにミスを犯すというのを繰り返すのだが、今回もまさに然り。
少し迂回すれば、比較的容易に渡り切ることができたと思うのだけど、先に書いたとおり、ここでひっくり返ってしまった。
最後尾を歩いていたため他の誰にも気づかれず、メンバーは遠ざかって行った。このような場合に限らず、山で事故が起きたとき、誰も気づかないんだろうな、きっと。
ともあれ初体験の御池渡りができて、来た甲斐があった。(続く)




