乙川優三郎「脊梁山脈」の主人公矢田部と関わる2人の女性が登場する。
その1人は矢田部が復員してきたとき、上野駅で知り合った女性。
戦後の焼け跡、闇市が横行するガード下で「月の夜」という飲み屋を営むたくましい女性であり、絵を描くアーティストでもある。
個性にあふれ、魅力ある女性。
遠慮なく何でも言い合える仲であるが、それぞれに成すべきことを抱え込んでいるため、どこまで行っても平行線で終わる。
そしてもう1人。
木地師である父親が作った木工品を鳴子の温泉宿に売りに来た女性。
轆轤を使い木工品を作るところを見せてほしいと山の奥深くに木地師を訪ねた。
その後、案内してくれた女性は温泉宿の芸者見習いになる。再会した後の2人の関わりは、川端康成「雪国」の旅人と芸者との交わりのようである。
この女性は子供の頃から教わってきた三味線に非凡な才能を有する。
2人の女性とのラブロマンスを絡めながらのストーリー展開が面白くないわけがない。それに加えて、木地師たちを訪ねて山の奥深くまで歩く描写がたまらない。古代史ロマン、ラブストーリー、山行、戦後の世相などが、相互に絡み合いながら物語が展開する。

