熊本市民劇場12月例会は「くにこ」。

向田邦子「父の詫び状」が下敷きになっているというので、文庫本を買い求めた。観劇の前に読んでおこうと思った。


「父の詫び状」は短編が24編。「父の詫び状」「身体髪膚」を読み終わるのはいとも簡単であり、家族構成などの見当がついた。


父は保険会社の地方支店長で転勤を余儀なくされるので、家族は鹿児島、高松、仙台、東京などに移り住む。祖母、両親、邦子が長女で、妹、弟、妹の7人家族。


それぞれの短編にタイトルがあるように、テーマに従って様々な家族のエピソードが綴られる。現在と過去が交錯し話があちこちに飛び、本を読んでいながらテレビでホームドラマを見ているようでもある。


父の詫び状


「お辞儀」に次の記述がある。

母の乗っている飛行機がゆっくりと滑走路で向きを変え始めた。急に胸がしめつけられるような気持ちになった。

「どうか落ちないで下さい。どうしても落ちるのだったら帰りにして下さい」

と祈りたい気持ちになった。


読んでいる方の胸がしめつけられるような気持ちになった。なぜなら作者自身がこの文章を書いた後に飛行機事故で亡くなっている。


その飛行機事故についてネット検索すると、日刊現代の記事があった。向田邦子は作家として絶頂期を迎えていた。突然の訃報に接した人々は驚き、惜しみ、涙がとまらない。衝撃的な出来事だった。


向田邦子は生前、冗談で「どうせ死ぬのなら飛行機事故で死にたい」と言っていたというのだが、残された家族はどのように受け止めたのだろう。


文庫本を半分ほど読み進めると、種々雑多なエピソードがちりばめられているので、演劇の脚本ではどのように整理されているだろうかと気になる。それを今回の観劇で見てみたい。