谷川岳、苗場山遠征登山のため越後にやってきた初日。
散歩を終えて南魚沼での宿、ヴィレッジ・ヨシタニに帰ると、夕飯までに時間がある。
寝室とは別に一室を談話室として使っていいと宿からの好意が示されたので、その談話室に行ってみると、すでに武揚が越後湯沢駅で買った日本酒を持ち込んでいた。
地域限定、季節限定の「ひやおろし上善如水」と「雪男」の黒と白が1本ずつ。
ポットと急須、湯飲み茶碗と菓子がちゃぶ台に置いてある。とりあえずホッと一息ついたところで、茶碗酒を飲むことにした。
翌日から登山なのだが、そのときは全く緊張感というものが欠如していたのかもしれない。山に来たのか、観光に来たのかと問われれば、明らかに観光気分だった。
東京の人にとっての越後湯沢や南魚沼というのはスキーや登山で身近な存在なのかもしれないが、九州から来たがねにとっては生まれて初めての土地であり、小説やテレビの映像でしか知らない遠くて関わりのない未知の世界なのだ。そこに自分がいるというだけで興奮していたのだ。
酒は雪解けの清冽な水と魚沼産コシヒカリで作られている。山岳ガイドをしてくれるヒサシさんから聞いた話では、地元の酒造りの製法が低温熟成法になり、品質が飛躍的に向上し、口当たりが柔らかくフルーツの香りがする極上の酒になったという。
はっちん柿
「酒を飲みたい」と思ったとしても何の不思議もないはずだ。たとえ、翌日から山登りが控えていたとしても・・・。(続く)






