コーシンくんには妹がいる。

その当時、コーシンくんは一番の親友であり、コーシンくんの母親はがねを実の子のように可愛がってくれた。

それを見ている妹もがねのことを兄と同じように慕ってくれた。


妹は高校生から大学生になる。

がねは大学生から社会人になる。

その頃だ。


妹は兄の友人として以上の存在としてがねを見ることがあっても不思議ではない。

自然なことだ。

がねも同じく友人の妹が可愛くて仕方がない。

明るく活発で、人としての美しいところを一杯持つ、魅力に溢れる少女だ。

がねも友人の妹が大好きだった。


それから40年が経った。

その間、一度も会っていない。


友人の母親の通夜式で妹に会った。

妹は”懐かしい”といって、おとぎの席にいる同級生のところに来て相手をしてくれた。

自慢の息子をみんなに紹介した。

断片的に話をする中で、その後の40年の歩みを知る。

教師として勤め上げ、子供を社会人にするまで育て上げ、非の打ち所のない人生を歩んできたことが伺われる。

育て上げた子供たちは母親が大好きだというのが、見ていてよく分かる。


年相応に老境に入ろうとしているのは隠せない。

だけど、背格好や顔の表情が変わらないと思って見ていると、屈託のない明るさや元気一杯のところが昔とひとつも変わっていない。


母親の通夜式の夜であって、同窓会のように懐かしい人々との再会を喜び合う場ではないのであって、いつまでも楽しい話を続けるべきではない。

再三にわたり息子を使者といて遣わし、いい加減に世間のしきたりに従って亡き母親の躯の傍にいるよう促されるのであるが、いつまでも懐かしい人々の傍を離れようとしない。


「息子は○銀行です。みなさん、息子をよろしく」

とおどけてみせて、みんなの笑いを誘ってようやく席に戻っていった。

がねもそれを見て、家路につくことにした。