ズーちゃんが姫路を逃げ出して日吉にやってきたとき、コンドーくんと一緒だった。傍からは親に反対されて、二人して駆け落ちしてきたかのように見えたけど、そもそも二人がどこでどうやって知り合ったのか、それは知らない。ただ、コンドーくんも関西なまりだった。日吉での暮らしはズーちゃんが飲食店の店員をして稼いだ金で支えられ、コンドーくんは仕事をしている風ではなかった。コンドーくんが部屋に置いている抽象画を数点見せてくれたことがある。叶うものなら絵描きとして世に出たいと夢想していたのかもしれないけど、いくらバブルの時代だといっても世の中は甘くない。世で認められるには、例えば展覧会に入賞するとか、世の評価を得なければならないし、仕事を得るにはつてが必要だったり、それなりの努力をしなければならないはずだ。だけど、コンドーくんにそのような素振りは見えなかった。好きなことを続けるには金が要るのだが、ただズーちゃんにすがっているだけはどうにもならない。二人ともそれまでのしがらみから逃れるようにして姫路を出てきたときは解放感に満たされただろうけど、やがて先のことをどうするかという問題に直面した。二人に何ができるというわけではなく、時の経過とともに苦境に立ち至る。すると二人に仲違いが始まり、ズーちゃんは二人の生活には希望がないと悟りはじめる。