元禄二年四月二十九日(陽暦六月十六日)

芭蕉と曽良は8日間滞在した等躬の屋敷を立ち、郡山へ向かう。途中、日和田の宿を過ぎて安積山(あさかやま)・浅香の沼を見て、二本松を経て、謡曲の名所黒塚を見物し、福島に到着し泊っている。


「かつみかつみ」と尋ねありきて、日は山の端にかかりぬ


安積山とその周辺で、陸奥の歌枕として詠い継がれてきた「花かつみ」を探しまわるが、その花がどんな花なのか、芭蕉も地元の人も知らなかった。

かつみとは何の花を指すのか。

解説書によれば、「国歌万葉記」、陸奥国の名所の部、「あさか沼」の条に「かつみとは薦(こも)のことなり。またあやめとも云えり」。


歌枕(古くからよく歌に詠まれた名所のこと)

安積山かげさへ見ゆる山の井の浅き心をわがおもはなくに(万葉集)

みちのくのあさかの沼の花かつみかつみる人にこひやわたらむ(古今集)


かつみ

信夫の里

早苗とる手もとや昔しのぶ摺


歌枕

陸奥の忍ぶもぢずり誰ゆえに乱れむと思う我ならなくに(河原左大臣)


「おくのほそ道」は歌枕を訪ねる旅ともいわれる。西行の訪ねた歌枕を芭蕉は自分の目で留めてみたい、そう憧れた。がねはそのような前提となる歌枕を知らない。さらにいえば、いわゆる古文の意味がよく分からない。これがネックとなって、なかなか理解が進まないのだ。従って文章の奥深さや味わいを享受できないでいる。ましてや朗唱ともなれば、なおさら難しい。小中学生のように柔らかい頭もないとなれば、どうすればいいのか。ともかく少しずつ読み進める他はない。