“葉室麟「紫匂う」の単行本が出たよ”というお知らせの記事を書いたけど、やっぱり小説の内容についても少し書いておこう。

本の帯に次のように記してある。


心極流の達人ながら、凡庸な努めに留まる蔵太。

二人の子供とともに穏やかに暮らす、その妻・澪。

藩校の秀才と謳われ、側用人にまで出世した笙平。

澪と笙平は、かつて一度だけ契りをかわした仲だった。

黒島藩を揺るがす政争の嵐の中、三人の思いは交錯する……。


藩の不正を正そうとする笙平を澪は何とか助けてあげようとするが、追手に阻まれ、窮地に陥る。

その澪を助けるために蔵太が行動を起こす。

その過程が克明に描かれる。

波乱万丈の冒険活劇。

その中で澪の笙平に対する思いと蔵太に対する思いが揺れ動く。

もう一つは笙平の母である香、そしてかつて笙平の妻であった志津。

この三人の女性の生き様がそれぞれに交錯する。


こう

がねにとっての見どころは、男たちの立ち居振る舞いよりも、むしろ女たちの心の動きにある。

これらが重層的に描かれるところが面白い。

人は背負った運命に流されるも、流されまいと踏みとどまるも、紙一重。

男の生き様は分かり易いが、女性の心理と行動は不可解にして謎。

だからこそ面白い。