新宿駅発の特急あずさに乗り中央線を走り、小淵沢駅で小海線に乗り換える。夜、小海線を走る列車から窓の外を眺めると、漆黒の闇。通過する駅の近くにしか明かりはない。どこに行くのだろうか、不安がよぎる。
などと書き始めれば小説のようだが、30年以上前、初めて小海線を旅したときの記憶では、このとおりだった。
馬流(まながし)駅で列車を降りた。そのとき訪ねたのは、長野県佐久にある高校の国語教師として赴任していた清水くん。
清水くんはニュージャズシンジケートの一員としてサックスを吹いていて、先輩の金子さんが親友の清水くんに会いにいくというので、がねはくっついて行ったのだ。ヒマだったな、その頃は。
馬流(まながし)駅に車で迎えに来てくれた清水くんは、川に近い畑の中の一軒家を借りていた。到着した夜は鍋で迎えてくれ、東京で飲んで騒いだ頃と同じようにして一夜を明かした。九州では見たこともない食材がいくつかあったが、もう忘れてしまった。
そのときはとても寒かった。九州人のがねが経験したことのない寒さだった。部屋の中は暖房があるから分からなかったが、翌朝、目が覚めたとき水道管が凍って水が出なかった。
外は肌が痛い寒さで、目に入る山の風景は水墨画の世界。雪に覆われた山肌に細くて黒い樹木が立っているだけ。初めて見る光景だった。
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