地元めぐろパーシモンホールにて真打昇進披露公演の都内千秋楽公演が無事にお開きとなりました。朝から冷たい雨がシトシト降る中でしたがおかげさまで1200席は満席。このご時世に本当にありがたい事です。心より感謝申し上げます。


 今回のプロデューサーのらくごカフェ青木さんと朝から相談。仕込み開始。スタッフさんと後援会事務局さんとらくごカフェの皆さんも朝から入って働いてくださいます。流石にこの規模だと午前中から作業をしないと間に合いません。舞台設営、音響と照明の確認、パンフレットやチラシの準備、楽屋の準備、お囃子のチェック、普段の落語会なら1時間前に来てやれば終わるものが今回はさすがに半日かかりました。いやーホールの中を走り回るのなんの。


 舞台監督さんから「落語の世界は主役も朝から一緒に準備するんですか?」と驚かれましたが、前座修行を積んだ我々からしたら自分で動いてないと落ち着きません。まして自分の披露公演、なんか動いてないと心配で心配で仕方なかったです。今回優秀なプロのスタッフの方ばかりが手伝ってくれてますから、何にもしなくても出来上がるのはわかってるんですけどね。あんな大きな会場に体が慣れてないから仕方ないのです、はい。


 続々とゲストのさだまさしさんや師匠方が楽屋入りされます。途端に楽屋が慌ただしくなります。場合によっては緊張感が走ったりもしますが、今日は皆さん笑顔で挨拶を交わして雑談をしたり冗談を言い合ったりみんなが僕にお祝いの言葉をかけてくださる温かい楽屋でした。さださんがずっとニコニコしてて気を使って色々と声をかけてくださるんです。「おお!柳枝!おめでとう!よし、写真撮ろうよ!」さすが国民的歌手…器が違います。ありがたい。涙が出る。単なるファンだった20年前の自分に自慢してやりたいです。「お前さださんと大ホールで共演するぞ」って。きっと信じないだろうな。うちの師匠はさださんとは初対面。深々と「いつもうちの柳枝を可愛がって頂きまして」と挨拶をしてくれました。親心ありがたいです。師匠とさださんのスリーショットも撮ってもらいました。そのうち額に入れて飾ろうと思います。


 談春師匠が開演前に楽屋外の喫煙所にそっと僕を連れ出して進行のアドバイスをくださいました。実は今回の披露公演、最初に知恵をつけてくれたのは談春師匠です。以前から大変にお世話になってますが、今回の公演は談春師匠もプロデューサーと言っても過言では無いです。1000人規模の独演会が常日頃の談春師匠はノウハウ全てを心得ていらっしゃいます。さださんを落語会のゲストに呼んだことがあるのも談春師匠だけですからアドバイスをくれます。「きっとさださんで延びるからな、短めに時間設定しておけよ」というアドバイス(笑)我が事のように全てを心配してくださってました。私が高座に上がる直前、僕の耳元まで来て「大丈夫、ゆっくり落ち着いてやって来い」と最後のアドバイス。顔は怖いですがとっても優しいのです(笑)


 口上の司会を今回は一之輔兄さんに頼みました。一之輔兄さんが珍しく「えー口上の司会なんて何を言ったらいいんだよー、わからねーよー」と楽屋で不安を口にしていました。申し訳ないと思いながらも兄さんならきっと面白く楽しく進行してくださると確信してました。あんなに爆笑の連続の披露口上になったのは一之輔兄さんのおかげです。兄さんの「鮑のし」面白かったなぁー。多忙なのにおめでたい噺を用意してくれた兄さんの思いやりを感じます。


 今回は番組冒頭に披露口上を行いました(寄席では仲入り後)。開演直前には出演者全員黒紋付袴姿で高座にズラッと並びます。今回のお土産の特製手拭いの柄と同じ構図です。らくごカフェの青木さんが「すげーなー」と感嘆の声を漏らしてました。一蔵さんの太鼓、一花さんの笛、片シャギリと共に上がる緞帳、1200人の万雷の拍手に体が震えました。何度やっても口上は良いものです。一之輔兄、談春師匠、さださんの口上、どれもすごく可笑しくて温かくて。お客さんと一緒に私も笑っちゃってました。最後にビシッとうちの師匠の挨拶でしめてさださんの音頭で三本締め。唯一無二の素晴らしい口上でした。


 朝10時から支度してますからどこかのタイミングで少し稽古したりネタをどうするか考えたりする時間が取れるだろうと思ってたんですが取れないもんですね。「よし、今日は『子別れ』をやろう」と最後に決めたのは夕方でした。こういう披露公演では主役を立てる為に前方の師匠方が「今日は何をやるつもりなの?」と聞いてくれます。さださんからも聞かれました(笑)さすが落語通。


 さださんが太田その師匠の弾く『北の国から』の出囃子に乗って高座に上がります。座布団に座り「品川の白木屋にお染という…」と『品川心中』に入ろうとしたところで談春師匠が出て行ってツッコむというコント(笑)から始まり、落語好きのさださんならではの落語の名人との交流などを踏まえたトークを20分ほど。当初1〜2曲も歌ってくれたらありがたいですとお願いしてたのですがなんと『Birthday』『案山子』『いのちの理由』の3曲。聴いてて途中で気がつきました。「あ、さださん『子別れ』に合わせてきてくれてる」って。だから僕に何やるか聞いたんだって。歌詞がそうにしか聞こえなくなってきます。そしたら思い極まって袖で泣いちゃいました。


 自分の高座は思ったよりはマイペースで喋れた気がします。もう『子別れ』しか選択肢にありませんでした。「どんなにバタバタしててパニックになっても落語に入っちゃえばこっちのもんだ」と談春師匠が言ってくれてた言葉がふと甦ります。去年の披露目の大初日に演じた『子別れ』は初代の柳枝に対するリスペクトからでした。一年間の間にいろんなことがありました。自分の子供も少しずつ成長してきて、不自然だと感じるセリフは変えました。うちの師匠から直してもらった部分も多々あります。それを踏まえてラストの演出も少し変えました。分かる人しか分からないレベルですが。去年の真打一日目から成長してるといいなと思いながら。


 サゲを言って頭下げた時に降ってくる1200人の拍手は快感でした。まさかのカーテンコールまでしてもらって、終演後幕の中で出演者全員で三本締め。さださんが「こんな良いホールが地元にあってそこで披露目ができるなんて幸せだね」と。仰る通りとても幸せでした。明日死んじゃうんじゃないかなって思ったほどです。


 お客様、スタッフの皆様、出演者の皆様、本当に本当にありがとうございました。おかげさまで素敵な会になりました。一つ夢が叶いました。そして僕と一緒に一年間ずっと一緒に準備してくれてたらくごカフェオーナー青木さんに心から感謝申し上げます。今日からは福岡で披露公演2daysです!今日も頑張りたいと思います。今後とも応援よろしくお願いします。


柳枝