昨日真打昇進披露興行大初日を無事に迎えることができました。昨日まで緊急事態宣言が延長され、感染症対策で客席制限されたままでしたが満席のお客様の温かい笑い声と拍手で幸せでした。ご来場いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。

 

 前日から天気予報では「春の嵐」と言われ続け心配もしました。思わず仙台で仕事をしている気象予報士の弟に「初日は雨になるかね?」と訊くと「雨が降るってのは低い気圧のところに空気が集まって上昇するから。つまりは上昇気流」という精一杯の慰めのメッセージが来ました。どの予報見ても100%雨予報。なかなかないですよ、降水確率100%は。自分はよほどの雨男なんだなとガッカリしましたが、考えたらうちの師匠は自他共に認める最強の雨男でした。しょうがないしょうがない(笑)並ぶお客様が風雨でびしょ濡れになるのだけは避けて欲しいと思ったのですが、予報よりは雨はおとなしくてホッとしました。

 

 風雨がひどくなかったので寄席幟も無事に立てることができました。今回全部で五本の幟を頂きましたが昨日はそのうちの三本を立てて頂きました。地下鉄上野広小路駅に着いて地上に上がると鈴本演芸場前には自分の幟が見え、お客様が雨の中早くからズラリと並んでいる様子は本当に嬉しかったです。「いよいよ夢が叶ったのか」とここで初めて実感しました。正直なところ朝からバタバタしていて自分が真打に昇進したという実感がわかなかったのですが、初めてここで実感した気がします。噺家になったら自分の名前の幟が寄席に上がるのは夢ですから。


 

 披露興行には番頭さんがつきます。新真打の代わりに準備や片付けをしてくれます。だいたい一門の近しい後輩に頼むのですが、今回は春風亭ぴっかり☆さんに頼みました。彼女自身売れっ子ですから多忙なのですが、本当に僕のためによく働いてくれます。昨日も僕が入るより一時間以上前から楽屋に入って飾りつけの最終チェックなどしてくれていました。


 ぴっかり☆さんのほかにお手伝いで一門から春風亭一蔵さんと春風亭朝之助さん、新真打の各番頭さん、仲良しの柳家緑君さん、が手伝ってくれて僕はなんの心配もしなくてボーっとしている間にすべてが出来上がってる状態(笑)師匠に「お前はボーっとしてる」と普段から言われてきましたが改めて実感しました。なにからなにまでやってくれるので(一流ホテルのサービスに近いぐらい)僕は高座の準備と師匠方へのご挨拶だけに専念できました。後輩のありがたさを実感した次第です。みんなありがとう!!

 

 今回高座の背景に飾る後ろ幕は四枚頂戴しました。①「さだまさしさんと語院居の会」から稲荷町一門の光琳蔦の紋と先代柳枝師匠の三ツ割桔梗の紋をあしらった青い後ろ幕、②福岡の「内浜落語会」からあばれ熨斗をあしらった海老茶色の後ろ幕、③「明治学院大学OB会」から大学のイメージカラー黄色に僕の横顔を幾何学的にデザインした後ろ幕、④「春風亭柳枝後援会」から柳の木を松羽目にデザインした後ろ幕、四枚の後ろ幕を手伝いの二ツ目さんと前座さんがどんどん替えていきます。彩り豊かで見た目も楽しいものになりました。口上では③の明学落研OB会からの後ろ幕を使ったのですが、今回並んでくれた権太楼師匠も師匠正朝も僕も明学落研ですから所縁のある後ろ幕を前に口上ができたのはとても良かったように思います。





 

 僕ら新真打の落語はもちろんですが口上は披露興行の目玉です。初日は下手から司会の玉の輔師匠、権太楼師匠、私、師匠正朝、市馬会長、という順で並びました。昨日一番緊張したのが口上と言っても過言ではありません。黒紋付に袴で緋毛氈の上に師匠方と並ぶと少し震えました。口上には自分の師匠のほかには理事の師匠方が並びます。自分とあまり関わりの無い師匠方が口上に並ぶことも多いのですが、昨日の口上には僕を前座のころから可愛がってくださってる師匠しか並びませんでした。そういう意味では昨日の師匠方の口上は本当に僕を思っての口上だったように思います。胸が熱くなりウルウルしてしまいました。泣いちゃいかんと必死にこらえました。


 それにしても喋らずに真ん中でお辞儀してるだけなんですが難しいもんですね、「師匠が口上を言い終えたら僕も頭を下げるんだっけ?」と考えてたら権太楼師匠に頭下げろと押さえ込まれました(笑)殿様の前の八五郎の気持ちがよくわかりました。


 

 口上を終えていよいよ自分の初主任の高座のために着替えます。初日は後援会長が誂えてくださった茶のあられの着物に小豆色の羽織。僕の出囃子は「お若いの」から「都囃子」へと変わりました。軽妙で明るい曲から少し格調高い真打らしい曲になりました。上方では米朝師匠が若い頃、江戸では小金馬師匠がお使いになっていた曲です。大好きな曲です。師匠正朝をはじめ楽屋全員が僕を高座に拍手で見送ってくれます。袖から登場するとさらに大きな拍手。いつもより大きくて長い拍手はお客様からのお祝いの気持ちが伝わってきてありがたかったです。

 

 初日のネタは「子別れ」を選びました。雲助師匠から習った大好きな噺です。初代柳枝の作とも言われ、要となるキャラクターの亀ちゃんは初代柳枝師匠の本名亀吉から付けられた名前でもあります。始めはいつもよりやはり緊張していたようでうまく舌は回りませんでしたが、途中から亀ちゃんが勝手にしゃべりだしたので少しホッとしました。出来はともかく僕を応援していただけるお客様の前で目いっぱい好きな噺が喋れてとても楽しかったというのが率直な感想です。

 

 とにかく僕のお客様が背中を押してくれました。出演者の先輩方が高座を下りてくると口を揃えて「初日からこんなに良いお客様は珍しい」と言ってくれました。だいたい初日はお客様も緊張して笑わないことが多いのですが、昨日はお客様が披露興行を楽しんでくださる空気が最初から寄席全体を包み込んでいて多幸感にあふれてました。鈴本演芸場、休業からの再開一日目でまだ客席は制限した形でしたがお祝いムードは普段よりずっと大きかった気がします。本当に僕は周りの人に恵まれています。



 高座を終えて幕が閉まってからの楽屋一同での三本締め、何故かお祝いしてもらうはずの僕まで三本締めしてて「なんでお前までしてんだよ」とみんなに突っ込まれました。この写真のみんなの顔に注目。一之輔兄の「違うだろ!」という厳しい視線(笑)ほんとに僕はボーッとしてるみたい。



 

 初日チケットは即日完売となったのでご来場いただけなかったお客様も多かったようですが披露興行は始まったばかりです。僕の出演日の前売り券は完売となっていますが新宿、浅草、池袋と当日券は出る予定です。国立演芸場は4月6日から発売されます。ほかの四人の新真打の仲間の日も含めて是非とも足をお運びください。近頃の鬱屈した日常を吹き飛ばすこと間違いなしです。

 

 皆様からの愛情に常に感謝しつつ、真打らしい芸を目指し精進してまいります。今後とも九代目春風亭柳枝を何卒よろしくお願いいたします。長文失礼しました!


柳枝