最強の上司、A部長 前編 | ■■■現役商社マン/武浪猛の商社マン流人生指南■■■     若き血に燃ゆる者たちへ!

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このままじゃ、日本国は滅亡の国家に成り果てる。 世界の中で揉まれてきたオレは、オレ流の武士道というものを育んで来た。オレの言葉が、少しでも君ら若者の心に刺さればと思って、オレはこのサイトを立ち上げた。 さぁ、この国を元気にしようじゃないか。

最近多くのメールでどういう上司がいたかということをよく聞かれる。思えば変人が多かったな(笑)。


一番印象に残っているのは、俺が25歳から30歳の頃のA部長だ。



最近はだいぶ社内の上下関係もカジュアルになって来ているが、当時は若手社員が部長と気安く話すなんてなかなか許されない雰囲気だった。レポートや報告を上げるにしても、逆に何か部長から指示が降りてくるにしても、常に自分の直属の主任、課長、次長、そして部長と言う階層を通じて行われる、明確な序列があった。


しかしA部長は違った。いつも


「おい、タケシ!ちょっと来い」


と言ってオレを部長席に呼び出したり、向こうからオレの席にふらりとやってきたりして、オレをかわいがってくれた。


また若僧のオレにも


「オマエがオレなら、どうする?」


と忌憚ない意見を求めてくれた。



A部長は当時、今のオレと同じくらいの歳だったと思うが、体型はスリムで、どんなに暑くてもスーツをきれいに着こなし、精悍な顔つきだった。今で言えば、かなりのイケメンで(当時、まだイケメンなんて言葉はかったが)、社内の女性らの中でも評判だった。


今の時代なら、GQやLEONとかの雑誌に出ていても不思議ではない、チョイ悪なオヤジだった。



すごいのは、このルックス以上にキャラクターが深くて濃いんだ。


哲学、文学、芸術とワインをこよなく愛し、食事に行けば、シェリー酒から始まり、赤ワインをたしなみながら、高級そうな葉巻を片手に、平気な顔をしてサルトルの実存主義について語る。そんな知的好奇心と教養にあふれる人だった。


ヨーロッパ的な気品があって、高貴と自由があいまった雰囲気をこよなく愛する人だった。


でもさ、何かと理由をつけてすぐヨーロッパに出張してしまうんだ(俺も同行させられることが多かった)。そして仕事がひと段落すると


「タケシ、先に日本に帰ってろ」


と言って、自分は2週間くらいヨーロッパを周遊するんだから、困ったもんだよ(笑)。もちろん、本人は「視察」だって言い張ってたけどな。


電子メールや携帯電話なんてない時代だったから、A部長がヨーロッパ周遊で不在の間、A部長に指示をあおぐのは大変だった。オレら若手は、A部長が泊まりそうなホテルに、片っ端から電話させられたもんだ(笑)。


A部長の緊急決裁が必要になり、どうしてもつかまらないA部長を探して部署メンバー総出で、居場所を突き止めるべくフランスのToulouse中のホテルに電話をしたこともあった(前々からToulouseでフォアグラと白ワインを飲むのがいいと言っていたので)。


しかし、結局、どのホテルに電話してもまったく見つからない。本当は権限規定違反なのだが、最後は次長が代理決裁して何とかした。


それから数日すると、真っ黒に日焼けしたA部長が会社に現れて、「地中海の島で彼女とエンジョイしていた」とのことだった。オレたちは日本であわてまくっていたのにさ(笑)。あの時はあきれてものが言えなかったな。



こんなA部長の破天荒ぶりを書くと、ただの遊び人、趣味人にしか見えないかもしれない。


しかし、仕事はすさまじくでき、社内だけでなく取引先や競合企業からも敬意を集めていた。


当時は、朝から晩まで働くようなモーレツ商社マンがもてはやされていた。しかし、ヨーロッパ人を自称するA部長は、そういう連中を「バリューレスな社蓄」と呼び軽蔑していた。



若手社員が残業していると、


「今すぐ資料をしまえ」


と言って、ことあるごとにオレら若手を食事に誘い出した(その後、会社に帰って仕事しなきゃいけないから、ますますモーレツ社員をやらざるを得ないんだけどさ・・・)。


食事の席では、普通なら社内政治や昔の武勇伝を聞かせる上司が多い中、A部長の口から会社や仕事の話しが出ることはなかった。


文学論、芸術論、音楽論、人生観までをゆっくりと語ってくれた。ウィスキーの飲み方、酒の種類、ワインのテロワール、ホステスへの接し方、葉巻の吸い方など今の遊びの基礎はすべてA部長に教わった(笑)。


九州の田舎村からニセ慶應ボーイになってバブル期に調子に乗りまくっていたオレは、「こんな洗練された人がいるのか」と憧れだったものだよ。



おっと、A部長の仕事ぶりを書くつもりが、ついつい遊び話になってしまった。



だが、この記事を書いていたら、オレもBourgogneワインを飲みたくなって来た(笑)。


A部長の仕事人としての顔は次回に譲ろう。


続く

Takeshi