藤沢良知著『図解・食育』という書籍を紹介する。  この藤沢良知著『図解・食育』という書籍は本当 | 松陰のブログ

松陰のブログ

ブログの説明を入力します。

藤沢良知著『図解・食育』という書籍を紹介する。

 この藤沢良知著『図解・食育』という書籍は本当に素晴らしい書籍でした。何が素晴らしいかと言えば、食に関する実態に対し、きちんとしたデータを提供していることです。このデータを見るだけで勉強になります。

 平成17年、「食育基本法」が作られました。食育基本法では、家庭、学校、保育所、地域等を中心に、国を挙げて食育を推進させるため、食育についての基本理念が明らかにされ、方向性が示されました(38頁参照)。食育は、食に関する適切な判断力を養い、生涯にわたって健全な食生活を実現することにより、国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成に資することを旨としています(40頁参照)。日本は82.7歳と世界一の平均寿命を達成した国家になりました(国連2000~2005年データ参照)。しかし、ただ長く生きるというだけでは人間にとって幸福な人生とは言えません。健康に長生きしてこそ長寿の意味があるのです。健康寿命が求められています。健康寿命は生活の質を考慮に入れた生存年ということです。あるレベルの健康状態での期待生存年数。あと何年、健康に暮らせるかの指標。何を健康とするかで様々な測定が可能で、日常生活活動(ADL)に障害のない生存期間、認知症(痴呆)のない期間、長期ケア施設に入所しない期間、主観的に健康と感じている期間、社会的生活活動に従事している期間が挙げられます(114頁参照)。この健康寿命でも日本は世界で一番になっていました(115頁参照)。これは日本にとって誇らしいことです。健康寿命と平均寿命の差、つまり何らかの健康障害を持ちながら生きている期間をいかに少なくするかが問われるのです。健康寿命の延伸と人生の質(QOL)を高めていくことが求められてきています(115頁参照)。

 また、世界の食料事情も記載されていました。特筆すべき問題は、日本の食料自給率(熱量<カロリー>自給率)は40%と低く、6割もの食料を輸入しているという現状です(158頁参照)。諸外国の食料自給率を見てみると、オーストラリアで230%、私が大好きなイギリスで74%、ドイツで91%でした。日本の穀物自給率は平成17年で28%、主食用穀物自給率では平成17年で61%でした。世界173カ国・地域の穀物自給率(2002年)を見ると、日本は124番目であり、経済協力開発機構(OECD)加盟国の30カ国の中で27番目という低い水準だそうです(158頁参照)。2001年にロシアは、雨が少ないことによる干ばつが発生し、ロシアの穀物生産が大打撃を受けました。当初予定した小麦の収穫量は大きく下回り、輸出に回している余裕はないので、ロシア政府は自国の小麦の輸出を禁止すると発表しました(2010年10月2日・日テレニュース24参照)。国家の食料政策として、まず自国の国民への食料が最優先され、余剰食料が輸出に回されます。食料輸出大国が天候不順により余剰食料が少なくなり、輸出に回す食料がなくなると、被害を甚大に受けるのは日本のような輸入大国なのです。日本も食料自給率を考えないと、天候不順の度に、輸入先の国は自国の国民の食料を優先させますから、日本国内が食料不足になってしまいます。昨今の食料価格の上昇も天候不順が一因であり、考えなくてはならない問題です。さらに食料は投機によって価格が上昇します。この食料への投機も曲者です。食料の安定供給と安定価格は日本の課題です。

 私が『図解・食育』という書籍内のデータで疑問に思ったのは、Data6-12の「世帯における食品ロス率」のデータです。高齢者がいない3人以上世帯の食品ロス率が3.7%、高齢者のいる3人以上世帯の食品ロス率が4.3%でした。食品ロス率において高齢者がいる方が高い食料ロス率を示していました。この結果を見て、高齢者の食事に対する配慮が足りないのではないかと思いました。例えば、お惣菜に関しても高齢者に合わない量をスーパーで置いてあったりとか、高齢者の食事量以上の量を提供しているのではないかと。Data6-13の「年齢別の食品ロス量、食品ロス率」でも50~59歳で4.8%、60歳以上で4.6%と高齢者が高い食料ロス率を示しています(165頁参照)。その原因は何なのだろうかと疑問を持ちました。

 『図解・食育』という書籍では、環境への配慮として、地産地消を奨励していました。輸送に伴う環境への負荷を少なくすることや、食や農の距離が拡大し消費者からは農業生産や食品流通の実態が見えなくなってきていることから、食と農の距離を縮め、消費者と生産者の顔が見える関係づくりに関心が高まってきました。このような取り組みは、世界各地でも行われており、イタリアのスローフード運動、韓国の身土不二、アメリカのCSA(地域が支える農業)などとして進められています(182頁参照)。地産地消を測るひとつの指標として、フードマイルズというものがあります。イギリスの消費者運動家ティム・ラング氏が食料の生産地から食卓までの距離に着目して、なるべく近くでとれる食材を食べる方が、輸送に伴う環境負荷が少なくなるという考えに立って、平成6年にフードマイルズという概念を提唱したのです。フードマイレージ(t・km)=輸入相手国別の食料輸入量(t)×輸出国から輸入国までの輸送距離(km)で求められます。そして、残念なことに、日本のフードマイレージは9002億t・kmで世界第1位となってしまっています(181頁参照)。

豊かさに関する調査結果も掲載されていました。モノの豊かさから心の豊かさへの移行を勧めていました(176頁参照)。私は、21世紀は「心の世紀」になることを願っています。人間同士が信頼と信用を確立し、癒される社会を創造すること。物質的満足から精神的満足を求める世紀を目指して欲しいものです。アブラハム・マズロー氏に拠れば、人間の欲求は五段階に分かれるといいます。有名なマズローの欲求五段階説です。生理的欲求、安全と安定の欲求、愛・集団所属の欲求、自尊心・他者による尊敬の欲求、自己実現の欲求です。人間は、生理的欲求、安全と安定の欲求という基本的な欲求が満たされると、高次の欲求を満たしたくなるというもの(『マズローの心理学』 フランク・ゴーブル著 59頁参照)。世界の人々の生活が物質的に充足し、その結果、精神的な高みを求められる世界が創造されることを願うばかりです。この藤沢良知氏著の『図解・食育』という書籍は、現在の食生活事情を知る上ではものすごく役に立つ書籍だと思います。何よりも充実したデータにより実態のイメージを把握しやすいことです。一読をお勧めできる書籍です。

 

(注意)この書籍の発行日は2007年7月20日であり、データはその当時に集計されたものであることを考慮して下さい。また、現在と実態が変化しているものがあることを了承した上で読んで下さい。