佐々木恒男・吉原正彦共訳、H・A・サイモン著『意思決定と合理性』という書籍を紹介する。 H・A | 松陰のブログ

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佐々木恒男・吉原正彦共訳、H・A・サイモン著『意思決定と合理性』という書籍を紹介する。

H・A・サイモン氏は1978年にノーベル経済学賞を受賞した経営学者です。H・A・サイモン氏の意思決定の考え方は企業のコンピュータ化に多大な影響を与えています。

H・A・サイモン氏で有名なのは「認知限界」の概念です。蟻の歩いた跡を幾何学的な図形としてみると、不規則で、複雑であり、記述しにくいものです。しかしそこに見られる複雑性は、本当は蟻が歩いた海岸の複雑さを示しているのであって、その蟻の複雑さを示すものではないのです。蟻と同じ所に巣をもつ蟻以外の小動物でも、同じ環境におかれたら、きっと似たような路を辿るにちがいありません。この問題を考えていくと、人工物についてから導き出される一つの系として、次のような仮説に達します。「一つの行動システムとして眺めた場合、蟻は極めて単純です。その行動の経時的な複雑さは、主に、それが置かれている環境の複雑さを反映したものです」。H・A・サイモン氏はこの仮説の「蟻」を「人間」という言葉に代えて考え、人間の認知限界という概念を提唱したのです(『新版・システムの科学』H・A・サイモン著 86頁参照)。ちなみに、野中郁次郎氏は、H・A・サイモン氏の認知限界に対して情報創造を提案しています。H・A・サイモン氏でさえ、個人としての人間は情報処理能力に限界があるので、それを克服して効率的な情報処理を行うために、階層そして究極的には組織が必要であると考えました。H・A・サイモン氏の提唱した有名な概念が、「認知限界」です。そのベースにあるものは、人間についての次のようなイメージです。海岸を歩く蟻の歩いた跡をみると、それはギザギザが右に左に動き、いかにも複雑に見えます。しかし、それは蟻の認知(情報処理)能力の複雑さを示すものではありません。それは蟻が自分の巣の大まかな方向は解っているけれども、途中の障害物が全て予知できない、視界が限られているという認知能力の限界のために、障害物にぶつかる度に進路を変えなければならないからなのです。したがって、「蟻の軌跡は、蟻が歩いた海岸の複雑性を示すもので、決して蟻の認知能力の複雑さを示すものではありません。人間も一つの行動システムとして眺めた場合、蟻同様その認知能力は、極めて単純なものです」と言います。このような人間の認知能力の範囲で最大の合理性を確保するために、組織構造(階層的システム)を構築し、組織内の情報処理を単純化することによって個人の認知能力の限界を克服する、というのがH・A・サイモン氏の組織観です。人間をどう見るかは、色々な見方があっても良いです。確かに「認知限界」は、人間の本質の一面を洞察しました。しかしながら、人間には情報を処理する能力だけではなく、情報を創造する能力があります。組織の効率性から創造性が求められている今日、人間の本質は情報あるいは秩序を創造するところにあると見るパラダイムが必要です(『企業進化論』野中郁次郎著 122頁参照)。野中郁次郎氏は情報処理から情報創造へとパラダイムシフトを提唱したのです。

H・A・サイモン氏著の『意思決定と合理性』という書籍には皮肉なことに進化論を利用した適応モデルをも提唱しています。合理的な過程に対して、進化論的な視点は何を意味するのでしょうか。進化の(しかたがってまた、この種の合理性の)受容は、全体的な最適化という視点、全てのものはある不動の最適状態へと進化して行くという考え方に私達を傾倒させはしません。現代の環境に対しては多くの局部的な適応があり、同時にそれ自体絶えず変動しているある目標に向けての不断の進展があるという確信に私達を傾倒させるだけです。合理性の進化モデルは、合理的な過程のための特殊なメカニズムに私達を傾倒させたりしません。それはただ、そのような過程が進展する方向を示すだけです。変異と選択を前提とするダーウィン説の進化の説明は私達に、利己的な遺伝子という概念を本気でもつことを必要とさせます。特にその固定化されたニッチというモデルにあっては、ある種の利己性を別とすれば、それ以外のものに対する余地はほとんど見出せません。実際には、強力なメカニズム、つまり様々なフィードバックのメカニズムがあり、それらは、もしも利己性が適合性を増大させるのであれば、それを無理にでも啓蒙されたものであるようにさせることができます。適切なフィードバックがある時には、啓蒙されていない利己性は、純粋な利他主義によって経験させるのと同じように、生き残るための諸問題を大いに経験することができます。現実の世界における最も強烈で顕著な競争の過程は、ニッチの固定された集合を占めるための競争ではなく、分化とニッチの精緻化の過程であるかも知れません。合理性についての三つの考え方、つまり合理的な選択についての三つの方法の中の行動モデルと最も似ていることです(75頁参照)。ちなみに、合理性についての三つの考え方とは、全知全能モデル(統合された世界において、包括的な選択を行う英雄的な人間を想定しています)、行動モデル(人間の合理性は非常に限定されており、状況と人間の計算能力によって、非常に制約されているという前提に立っています)、直観モデル(人間の思考がしばしば情動によって影響されていることを認め、特定の時点に、特定の問題に人間の注意を集中させるのに情動がどのような機能を果たしているかという問題を扱います)のことです(37頁参照)。それに進化論的適応としての合理性の考え方を加え、四つの合理性についての考え方をH・A・サイモン氏は述べています。

『意思決定と合理性』という書籍で、H・A・サイモン氏は、人間の理性は、特定の部分的な必要や問題を探求するための用具であることに比べて、全世界のシステムの一般均衡をモデル化し、予測するための用具、あるいはあらゆる時点に全ての変数を考察する厖大な一般モデルを創り出すための用具としては劣っていると述べています(112頁参照)。H・A・サイモン氏の著書『意思決定と合理性』や『新版・システムの科学』と野中郁次郎氏の著書『企業進化論』の両者の書籍を読むと、先に述べた人間観の相違がはっきりと分かります。経営学において、理論の形成に大きな影響を与えるのはその学者の人間観にあるように思えます。

また、経営学では、「バーナード=サイモン理論」と呼ばれています。バーナード=サイモン理論のバーナード=サイモンとは、C・I・バーナード氏とH・A・サイモン氏のことです。しかし、実際、私は、C・I・バーナード氏の書籍もH・A・サイモン氏の書籍も読破しましたが、C・I・バーナード氏とH・A・サイモン氏の理論は全く別のもののように感じます。