飯野春樹編『バーナード・経営者の役割』という書籍を紹介する。 飯野春樹氏編の『バーナード・経営 | 松陰のブログ

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飯野春樹編『バーナード・経営者の役割』という書籍を紹介する。

飯野春樹氏編の『バーナード・経営者の役割』という書籍は、チェスター・バーナード氏の著書『経営者の役割』を解説した書籍です。飯野春樹氏、植村省三氏、高澤十四久氏、庭本佳和氏、吉原正彦氏が編纂、執筆に携わっています。

バーナード氏は、従来の組織や管理に対する、支配とか抑圧というやや暗いイメージを伴う考え方を180度転換させ、人間中心の、組織と個人を同時に満足させ、発展させる道を追求した理論を構築したのです。それは組織と管理の近代理論と言われています(1頁参照)。経済学のおける、私が尊敬する偉大なる経済学者のJ・M・ケインズ氏の場合と同様に、バーナード氏は組織論、管理論の分野で、伝統理論から転機を画する近代理論を打ち立てました。「バーナード革命」という表現は、「ケインズ革命」になぞられたものです。一般にバーナード革命と言われる理由として、新しい人間観からはじまる組織論であること、システム・アプローチをとっていること、全体主義と個人主義、決定論と自由意志論、有効性と能率、等々の統合を求め、「個人と協働の同時的発展」を期していることです。アメリカ経営学(マネジメント論)の流れの中で、バーナード氏は、全人仮説としての人間観から出発して、従来の「職務の仕組み」、「支配の機構」としての組織観から、人間の協働活動のシステムとしての組織観へと転換させ、全体主義より個人主義、有効性より能率を重視する管理論を展開しました(3頁参照)。

バーナード氏の生涯で特筆すべきは、バーナード氏が有能な経営者であったことです。実際に経営に携わっていたことです。1909年、ハーバード大学を中退したバーナード氏は、縁あってアメリカ電話電信会社(AT&T)に入社、その後の人生を方向づけた電話事業に関係することになります。1927年、彼41歳の時、新設のニュージャージー・ベル電話会社の初代社長に就任、1948年までの21年間、その職にありました。この期間は、バーナード氏がその生涯において最も華々しく活躍した時期であり、社長以外にも数多くの組織体の役職を兼ね、講演や著述活動もさかんでした。主著『経営者の役割』、論文集『組織と管理』は、それぞれ在職中の1938年と48年に出版されています(8頁参照)。第二次世界大戦中のUSO会長職はバーナードの組織理論を一層深化される貴重な体験でした。USOとは、第二次世界大戦で戦う兵士達に種々のサービスを提供するために、宗教団体を主とする六つの組織のボランティアによって組織された団体です。多数の自発的協力者の活動から成る組織だけに、その運営には、企業組織などの場合以上に、一層、道徳的説得に頼らなくてはならなかったのです(13頁参照)。チェスター・バーナード氏が著わした『経営者の役割』における「組織」とは決して営利団体、つまり企業だけを想定したものではありません。組織全般に通じるマネジメント理論について書かれた書籍なのです。組織は道徳的制度であり、「権限」中心的思考から「責任」中心的思考に転換すべきであること、組織にはいく種類もの道徳があり、必然的に対立葛藤が生じる故にその解決が計られるべきこと、などを強く主張するに至ったのです(14頁参照)。

午後5時過ぎ、ちょうど退社時刻、その立派な玄関は、帰りを急ぐサラリーマンを掃き出し、まるで生き物のようです。午後8時、建物はそこここにはまだ残業をする人の明かりがついています。午前0時に近づく頃、窓の明かりは完全に消えました。あたりに人影はほとんどありません。すると、どうでしょう。昼間、あれほど迫ってきた会社のイメージが消えて、ただの建物になってしまいました。シーンと静まりかえったオフィスを凝視してみると、だんだん会社のイメージから遠ざかっていきます。机なども、もう机すら感じなくなって、ただのコンクリート空間の中の、ただの物体にしかすぎなくなってしまっています(41頁参照)。人々の動きは、それらの物と一体となって、一つの力として現れています。それが協働であり、会社というものの本質です(42頁参照)。

チェスター・バーナード氏の著書『経営者の役割』を読む上で難解だと思われているのが、そのシステム観です。協働システムとは、「少なくとも一つの明確な目的のために二人以上の人々が協働することによって、特殊の体系的関係にある物的、生物的、個人的、社会的構成要素の複合体」です。バーナード氏は、協働システムを分析するための最も有効な概念として、協働システムに具体性と多様性を与えている物的、社会的、個人的要因を捨象して得られた側面を抜き出します。これを「公式組織」と呼んで、「二人以上の人々の、意識的に調整された諸活動または諸力のシステム」と定義しています。協働システムから抽出された組織は、人間行為だけから成る「純粋組織」、「抽象組織」とも言われます。きわめて抽象的な「概念構成」、つまり「理念的な単純組織」概念であって、あくまで具体的な組織問題への接近を試みる「分析用具」です。バーナード氏は、この「科学的に有効な組織概念」を用いて、協働システムを分析し、管理機能、さらに道徳的リーダーシップの問題に達します。協働システムは常に安定したものではなく、環境変化に適応することによってはじめて存続できます。この協働システムの適応過程が管理であり、その管理の作用を担うのが組織です。つまり、組織を通じて適応がはかられます。協働システムはこのような構造とメカニズムを持っています。組織がそれ自体として存在するのではなく、協働と融合し、その背景に隠れていることもあって、容易に理解しづらいものとなっています(48頁参照)。

組織のレベルで分析し、摘出されたのが、組織の三要素です。組織の三要素とは、共通の目的、コミュニケーション、協働意志です。組織は相互依存的な三要素が一体となった人間諸力の交叉する場であり、ここに組織が把握されます(52頁参照)。組織は、「相互に伝達できる人々が、行為を提供しようとする意志をもって、共通の目的を達成しようとする」時に成立する「人々の調整された活動のシステム」です。あらゆる組織にこの三つの要素が見出されます。この三つの要素が組織成立の必要かつ十分な条件をなしています(56頁参照)。協働システムのレベルでの組織とは純粋組織=理念型組織ではなく、単位組織、複合組織のレベルであります(52頁参照)。公式組織は一般に下位組織から成る複合組織です。複合組織は全て小さな単純組織(=単位組織)の結合によって成長します。全ての大きな公式組織は、多くの小さな単位組織によって構成されています(65頁参照)。単位組織の規模は、効果的なリーダーシップの限界、コミュニケーション能力によって非常に厳しく制約されています。単位組織以外の全ての組織は、二つ以上の単位組織を集合したもの、つまり複合組織です。したがって、複合組織は単位組織によって創造されていると言えます(70頁参照)。

組織には、特別に意識された目的をもっておらず、公式組織のように調整された活動=組織人格的行動でないがものがあり、それを「非公式組織」と言います。それはあくまでも個人の人格的接触や相互作用の総合であり、個人人格的行動が基礎になっています。当然に、非公式組織は明確な構造や下部単位をもたない無意識な社会過程です。しかし、非公式組織は時に公式組織に転化することもあります(74頁参照)。バーナード氏は、複合公式組織の諸要素として、「専門化」、「誘因」、「権威」、「意思決定」を指摘しています。これらは、公式組織の三要素、すなわち「共通の目的」、「協働意志」、「コミュニケーション」の具体的展開をなすものとみなすことができます(82頁参照)。

チェスター・バーナード氏の著書『経営者の役割』を読むためには、協働システム、公式組織、非公式組織の概念が分からないと難しいです。飯野春樹氏編の『バーナード・経営者の役割』には、そういったバーナード氏の著書『経営者の役割』を読むための概念を詳細に説明してくれています。