北矢行男郎著『ホロニック・カンパニー』という書籍を紹介する。 「ホロン」という言葉はイギリス | 松陰のブログ

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北矢行男郎著『ホロニック・カンパニー』という書籍を紹介する。


「ホロン」という言葉はイギリスの科学批評家で小説家のアーサー・ケストラー氏の造語で、ギリシャ語のホロス(全体)とオン(接尾語で個や部分を示す)の合成語です。ホロンという言葉は「全体子」と訳され、生命科学の領域では「個と全体との有機的調和」を意味する概念として従来から用いられています。それぞれ部分として個性を持って働きながら、全体や他の部分と協調して生きている状態のことをホロン的と言います。ホロンは、以上の他、ゆらぎ(融通性、柔軟さ)、自主性(自己組織化)、引き込み現象(エントレインメント)などの性格を持っています。有機体が調和を保ち、環境変化に柔軟に対応できることが明らかになりました。企業は生き物です。ホロン的な仕組みを企業経営の中にビルトインし、転換期の環境変化に適合していこうとするのがホロニック・マネジメントです。ホロニック・マネジメントとは、「自律と統合」を基本原理とする個と全体との有機的調和のマネジメントです。ホロニック・マネジメントの目指す望ましい企業の姿は、「企業のあらゆるレベルで構成員の各々が自律的に問題解決や事業構造の改革に取り組み、それが全体として望ましい調和の下に相乗効果を発揮し、企業の戦略ドメイン(生存領域)の実現に向けて統合され、収斂している状態です(46頁参照)。


知的生産の時代に求められる企業人の能力とは、一体どのようなものでしょうか。一般に、人の能力は、「態度・価値観」、「知識」、「技術」の三つの側面に分けて考えることができます。①「態度・価値観」の側面で最も重要なのは「志の高さ」をもつことです。自分の人生において社会との関係の中で、実現したい何らかの目標があるということです。目標をもつことによってはじめて、それと現実との間のギャップが認識でき、問題意識が高まるのです。目標の存在によって、それを実現しようとする気概(やる気)も生まれてきます。志の高さとやる気を土台にして、地道に目標の実現に向かって努力するかどうかにかかってきます。②「知識」の側面で重要なことは、時々刻々生産される情報や知識を片っぱしから覚えていくことではなく、世に溢れている情報や知識を的確に位置づけることのできる自分なりの包括的な認識枠組みを持つことです。知識というものは、一般にその時代における様々な社会現象や自然現象を最もリーズナブルに説明したものと言ってもよいでしょう。時代の目指すべき方向を説得力をもって説明しうる新しい知識の体系を再構築することが求められているのです。包括的な認識枠組を身につける必要に迫られています。透明な知性をもった人間が企業社会の中に増え、オピニオンリーダーになることが求められているのです。知の世界には年功序列も多数決も無縁であり、知の絶対水準が唯一ものをいう世界です。「もしかしたら彼(あるいは彼女)は自分よりも、より包括的な枠組でより的確に問題を捉え、自分に見えないところも見据えているのかも知れない」という謙虚な気持ちを持って互いに知的対決をしなければなりません。的確にものを見る眼などというものは、結局のところ、そのような日常的な努力によってはじめて身につくものです。③「技術」の側面で重要なことは、汎用的なソフトテクノロジーとしての「考える技術」を身につけること。戦略思考のことです。考える技術は、(1)思考の広さ、(2)思考の高さ、(3)思考の深さの三つの分野から構成されています。(1)思考の広さとは、問題をあらゆる角度から眺め、関連のありそうなものを全て考えるプロセスであり、主としてアイデアを生み出す創造的思考がこれに相当します。ここでは、オズボーン氏のチェックリスト法に始まり、川喜田二郎氏のKJ法、中山正和氏のNM法、ブレーンストーミング法など多くの創造性開発技法と言われる諸手法が参考になります。(2)思考の高さとは、問題解決の水準を高める質の高い思考のことであり、主としてこれまでの体験の全てが相乗効果を伴って生み出す理屈を超えた直観的思考のことです。(3)思考の深さとは、広くそして高く考えたアイデアを合理的にある目的や目標に向かって筋道をつけ、収斂させていく技術であり、主として論理的思考がこれに相当します。ここでいう論理的思考とはアルゴリズムや記号論理などの狭い範囲にとどまるものではなく、言葉の概念操作に基づく認識のアプローチとしての広義の論理を指しています(106頁参照)。


ハイテク社会にあって、いかなる業種のいかなる企業においても未来への永続のためのコストとして、他社を差別化する広義のR&D(研究開発)力を強化する必要に迫られています。広義のR&Dとは、シュンペーター的な意味での「革新(イノベーション)」を指しています。シュンペーター氏は、イノベーションを要素の新結合と考え、①新しい財貨や新しい品質の財貨の生産、②新しい生産方法の導入、③新しい販路の開拓、④原料や半製品の新しい供給源の獲得、⑤新しい組織の実現、という五つのケースを挙げています。企業におけるイノベーションとは、メーカー企業の「技術開発」を軸とした狭い範囲の研究開発にとどまるものではなく、新事業、新製品の開発のための研究、新しい市場開発、新しい流通戦略など同業他社との「差別化」を工夫する斬新な経営ノウハウを含む広範囲なものです(151頁参照)。イノベーションが要素間の新しい結びつきを意味するものだとすると、技術は各要素を結びつけてイノベーションを実現していくための方法ということができます。伝統的には技術は、ハードウェアとソフトウェアの二つから成り立つと言われてきました。ハードウェアとは、文字通り“金物”に関する技術であり、材料革命、機能革命などモノの性能の向上に結びつくものです。これに対してソフトウェアとは、モノをより良く利用するための技術で、情報処理を例に取ると、コンピュータ本体がハードウェアであり、プログラムに相当するのがソフトウェアです。物に関する技術をハードウェアと言い、その利用技術をソフトウェアと言います。この二つの技術に加えて、ヒューマンウェアという言葉も使われるようになりました。堺屋太一氏の造語で、ヒューマンウェアとは、人と人との関係における技術、“対人技術”のことです。技術の体系をハードウェア、ソフトウェア、ヒューマンウェアの三つの軸で位置づけます。北矢行男郎氏は、技術を人間との関係でトータルに捉えていくためには、中核となるもう一つの軸を加えていくことが必要だと述べています。それが、マインドウェアです。マインドウェアとは、人間のもつ最大の財産である意識や精神の世界を解放し、自己の可能性を拡大していくための技術です(158頁参照)。人々が自分自身の可能性を追求し、自己実現を図ることに全力を傾ける機会開発時代において、精神世界をコントロールする技術であるマインドウェアの開発が一層重要になってきます(167頁参照)。


企業にとって必要なのは、環境を徹底して読むことによって、将来に蓋然性の高いトレンドを見出し、それを有効な戦略に結びつけるとともに、重点志向に基づく戦略の実現プロセスでは、戦略との対応でセンシティブ(敏感)に環境変化の予兆をかぎとり、具体的行動にリアルタイムでフィードバックしていく一連のマネジメント・システムを確立していくことです。有効な戦略計画立案システムの特徴は、次の三つです。第一の特徴は、仮説設定型アプローチを採用していることです。第二の特徴は、計画策定プロセスの中にシナリオ・ライティングの手法を持ち込んでいることです。コーポレート・シナリオ(企業の将来像に関するシナリオ)とは、環境シナリオによって想定される環境変化との対応で自社の将来の状況分析を行い、未来における自社像を描くことです。第三の特徴は、自社の将来像に関するシナリオの分析を通して、具体的なリスク・マネジメントのシステム構築を提案していることです(250頁参照)。


北矢行男郎氏著の『ホロニック・カンパニー』という書籍は、第一章の問題提起を受けて、組織、人、マーケティング、技術、情報、戦略と極めて広範な領域にわたって、新しい企業のあり方について論じている良書です(4頁参照)。