村田昭治氏・水口健次氏編の『創21―脱成熟の戦略原理―』という書籍を紹介する。 時は20世紀末 | 松陰のブログ

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村田昭治氏・水口健次氏編の『創21脱成熟の戦略原理』という書籍を紹介する。

時は20世紀末の日本。日本経済は、大きな構造的転換のうねりの中に身を置いていました。「成長時代」と位置づけられる高度成長期が、二度の石油ショックを経て、多様化の成熟社会、ソフト重視の情報化社会に移行する中、経営環境は「企業間格差の時代」へとその厳しさを増して行きました。そして、円高や貿易不均衡など世界経済構造の急激な変化、さらに税制問題の展開などを考え合わせる時、まさに企業の存続自体を賭けた「企業淘汰の時代」が始まっていると考えられました。そして、そこにこそ、21世紀を見据えたイノベーティブな創造的経営が求められるようになったのです1頁参照)村田昭治氏・水口健次氏共編の『創21脱成熟の戦略原理』という書籍は、21世紀に向けてニュー・マーケティングのパラダイムを創造しようと寄稿された論文集です。23個の論文が掲載されています。プロットは、部がなぜ「創」なのか部が「創」のフレームワーク部が「創」のノウハウ部が「創」のエナジーです。そして、部として、「創」のキーワードがあり、創造に関連する用語集となっています。

では、数ある論文の中から、第5章の村田昭治氏、嶋口充輝氏共著の「新たなるマーケティング・パラダイムの創造~マーケティング行動の組立て方~」を紹介します。様々な人々との議論や現代企業のマーケティング活動の観察を通じて得た私達のひとつの結論は、現代マーケティング・パラダイムは古くて新しいマーケティングの基本テーマ、「創」に帰するという考え方です。つまり、マーケティングの最大の課題は、その時代時代に適応しながらも、常に社会や市場の中で何らかの価値や効用を創り出し、それを伝達、実現しながら、組織自らの生存と成長をその見返りとして受けるのです。そして、この「創」をめぐる多様な活動の中に、顧客志向、イノベーション推進、競争対抗、取引関係、組織統合、社会対応などの課題が散りばめられていると考えられます。その意味では、マーケティングのあらゆる活動や課題は、究極的には「創」に向かって直線的な求心力で結ばれています。では、現代マーケティングの中核をなす「創」を構成する要素には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、「創」に向けてその流れと方向を持つ五つの現代マーケティング視点を明らかにします。つまり「創」をマーケティングのグランド・パラダイムとした時、この五つの視点は、いわば「創」のサブ・パラダイムとなるものです。その五つとは、価値創出、交換管理、競争優位、革新推進、統合です。以下、この五つを説明します(105頁参照)。

価値創出。あらゆるマーケティングは、究極的には市場に価値をつくり出し、市場で価値を実現化するために遂行される活動です。その結果、マーケティング遂行者は、市場に需要を創造することが出来、成長、存続の糧を得るのです。その意味で、これは最も基本的かつ本質的なマーケティング・パラダイムと言えます。考えてみれば、現代マーケティングの中心的政策要素であるあらゆる製品・サービス活動は、いかに市場の欲する価値を形成するかという一般活動であり、価格政策は万人の共通の尺度である金額によって財やサービスの価値を表示する活動、プロモーション政策は人的・非人的方法を通じて市場に価値を伝達する活動、流通政策は時間と空間のギャップを埋めて価値を実現させる活動と言えます。このように、伝統的なマーケティング・ミックス(いわゆる4P活動)は、価値形成、価値表示、価値伝達、価値実現という一連の価値創出活動のプロセスとして捉えられるのです。マーケティングは、従来の4P活動を超えて、まさにこのような一連の価値創出活動を通じながら、その主体者(個人や組織)が市場内の存続と成長の保証を獲得する活動と考えられるのです。なお、近年のマーケティング活動において、戦略策定を通じての価値づくりのみならず、それを市場内にしっかり導入・実現していく戦略実行の側面への注目が大きくなっています(106頁参照)。交換パラダイム。「創」を基本テーマとするマーケティング活動は、そこに関与する利害者達の交換活動という視点から捉えることができます。交換パラダイムでは、売手主体と買手顧客との間に、双方型ないし互恵的な交換関係の実現をはかることにより、双方の満足をより一層高めていこうとするマーケティング観です。マーケティング活動を交換という視点でみることは、マーケティング活動にかかわるあらゆる利害者、例えば顧客、取引チャネル、政府、マスコミ等々とのギブ・アンド・テイクによる関係のマネジメントを効果的・効率的に運用していかなくてはならないことも示しています。その意味で、マーケティングの主体者は、他にメリットを与えながらも、自らの最終目的に向けてより優位な交換を目指しつつ、バーゲニング、交渉、パワー行使、コンフリクトの解消などの行為努力を行っていくと考えられるのです。このようにマーケティングは、いかにして相手を生かしつつ自らを生かすかを幅広い努力の中で実現していく過程と理解されます(107頁参照)。競争優位性パラダイム。今日は限られた市場のパイをめぐって、個別企業間での競争圧力が高まっており、かつて高度成長時のように競合他社との同質的競争が、市場にインパクトを与え、市場拡大の結果、全ての企業をハッピーにしてくれるというわけにはいかなくなっています。この現実に立つ以上、消費者やユーザーにとってより高い満足をもたらす真の競争優位性の概念を新しい合理的な意味づけ、位置づけの中で再認識していかなければなりません。そこでは、安易な戦争的競争でなく、最終的に市場に価値と効用を生み出すための有効な競争のあり方と合理的方策をマーケティングは明確にしていく必要があります。厳しい競争は、市場にベネフィットをもたらすが、企業は、直接的競争の中で持続的競争優位獲得に向けて「コスト・リーダーシップ」、「差別化」、「集中化」などの基本戦略をとり、その結果、市場に高い経済性と広い選択自由幅を付与していくのです。競争の結果、市場のベネフィットが一層高められるような健全な市場活動は、当該組織のみならず、産業全体をも健全に発展させていくことになります。その意味で、市場内の価値創出効果の高い競争優位化戦略をマーケティングの中心概念としてどのように展開するかが課題になっています(108頁参照)。革新パラダイム。「創」を目指すマーケティングは、単に市場に対して適応をはかるだけでなく、それ以上に市場内変化をリードし、そこに新しい革新を持ち込む企業行為の色彩を有しています。マーケティングは、単に環境変化にリアクティブに反応するだけでなく、自ら積極的にプロアクティブな働きかけを行い、環境を変革させつつ新しい機会をつくりだしていくのです。ダイナミックな社会の中で企業は、「創」の構想者、革新者、リード役としてのマーケティングを武器に、今後、ますます大きな機会をつくり出していくことが期待されるのです(109頁参照)。統合パラダイム。マーケティングは、常に企業を取りまく環境とのかかわりの中で、その活動課題をもっていくが、企業環境の複雑性故に極めて多様・多岐にわたる問題を統合的にバランスさせた対応を迫られています。それ故、マーケティングは、市場環境と組織を見究め、従来の動きと新しい動きを統合させつつ、ひとつの基本方向に向かわせる努力調整者としての役割を担うことになります。マーケティングにおける統合は、内容の統合と方法の統合に分けることができます。内容の統合は、需要対応・競争対応・流通対応・社会対応など、環境から挑戦を受ける各種課題を組織的に統合化することです。一方、方法の統合は、マーケティングの概念形成や内容豊富化に向けてのこれまでの各種アプローチを矛盾なく統合させることで、システムズアプローチ、行動科学、経済学アプローチなどをメタ・サイエンスに向けていく努力が行われます(110頁参照)。

このような統合努力を通じ、マーケティング行動は、革新をリードしつつ、利害者個人や集団との交渉を適切に行い、交換関係の実現と管理を実行し、市場発展に資する競争優位性を追求しながら、長期的な顧客やチャネル(取引)集団への満足維持と愛顧確保をはかっていくよう期待されるのです(110頁参照)。前述した20世紀末の日本と現在の日本の現状を比較してみると、かなり類似した環境のように感じます。類似しているということ、今でも充分に村田昭治氏・水口健次氏編の『創21脱成熟の戦略原理』という書籍の内容が活かせるということです。