野中郁次郎・紺野登共著『知識経営のすすめ―ナレッジマネジメントとその時代―』という書籍を紹介する | 松陰のブログ

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野中郁次郎・紺野登共著『知識経営のすすめ―ナレッジマネジメントとその時代―』という書籍を紹介する。

ナレッジマネジメントとは、簡単に言えば、個々人の知識や企業の知識資産を組織的に集結・共有することで効率を高めたり価値を生み出すこと。そして、そのための仕組みづくりや技術の活用を行なうことです(7頁参照)。

ナレッジマネジメントあるいは知識経営を志向する企業にとって、目指すべき価値の創造や成長のダイナミクスを引き起こすのは知識の共有や移転といったプロセスではありません。中心となるのは、それらを織り込んだ「知識創造」のプロセスです。組織的知識創造とは、組織が個人・集団・組織全体の各レベルで、企業の環境から知りうる以上の知識を、新たに創造(生産)することです。知識創造のプロセスは、暗黙知と形式知との相互作用で説明されます。つまり、それは主観的で言語化・形態化困難な暗黙知と、言語または形態に結晶された客観的な形式知の相互変換であり、その循環的プロセスを通じた、知識の質・量の発展です。暗黙知と形式知の関係は氷山とその一角としても例えられます。よく、暗黙知は分かりにくいから駄目で、全てを形式知にしなければならない、という乱暴な意見も聞かれます。しかし、そうした認識は全くの誤りで、知識の本質を見落としていると言えるでしょう。企業内や企業間で知識を共有・活用するには形式知が有効ですが、その背後に暗黙知がなければ知識自体の価値が損なわれてしまうことになります。しかし、ここでのポイントは「暗黙知か、形式知か(どちらが有用か)」という単純な議論ではありません。むしろ、企業の知識の多くが暗黙知なのであり、それをどのように活性化し、形式知化し、活用するかのプロセスこそが重要だと言えるのです。暗黙知と形式知は性質的には異なっていますが、これらは実は知識の異なる、補完し合う「極」でもあります。知識にはこの二極があるために、ダイナミックな増殖(知識創造)が可能となります。暗黙知が形式知化され、それがフィードバックされて、新たな発見や概念に繋がるのです(109頁参照)。

暗黙知と形式知の組み合わせによって、私達は、四つの知識変換パターンを想定することができます。それは、個人、グループにおけるコミュニケーションや相互作用によって、知識の二つの側面が変換されるプロセスを表わしています。その四つとは、共同化(暗黙知から<をもとに>新たに暗黙知を得るプロセス)、表出化(暗黙知から<をもとに>新たに形式知を得るプロセス)、結合化(形式知から<をもとに>新たに形式知を得るプロセス)、内面化(形式知から<をもとに>新たに暗黙知を得るプロセス)、です。共同化、表出化、結合化、内面化のそれぞれの英単語の頭文字を取って、SECI(セキ)プロセスと呼びます。共同化。共同化は、個人対個人が基本ユニットで、フェイス・トゥ・フェイスでの暗黙知のやり取りがエッセンスとなります。そのひとつは、社外での顧客やサプライヤーなどとの接触、場、経験の共有です。これによってトップや社員が新たな知識を体感してきます。店頭や訪問による顧客との対面はこうした活動のひとつです。外部の専門家との協業などもその一部です。この共同化のプロセスの本質は、知識創造において極めて重要な「原体験」の獲得です。ここでは、個人の主観的世界が大きな役割と地位を占めます。例えば心理的に閉じられた個であったり、個をそのように制約してしまう大組織などでは、この共同化は十分に行なわれません。表出化。このプロセスは、二つの因子からなります。ひとつは、自分自身の内に込められた暗黙知の表出です。それには、イメージや情感、思いなどが含まれますが、これらを言語や図像に表わすことです。例えば、歩き回った体験をもとに地図を描くことも表出化です。もうひとつの表出化の因子は、他者のイメージや思いを感じとって言語や図像化すること、つまり暗黙知から形式知への変換、翻訳です。したがって、このプロセスでは、個人と集団の相互作用関係が重要な媒体となります。つまり、思いを持つ個人がグループ内で刺激を受けたり、グループでの討議を通じて他者の思いや概念を共有します。さらに、それらが言葉となって産出されるようなダイナミズムが重要になります。そこではガイド、あるいはそうした産出を刺激活性化するような空間が大きな意味を持ちます。結合化。これは、形式知の結合を意味します。すでにある形式知から新たな形式知を生み出すことです。そこでは、まず他部門や外部からの形式知の獲得、総合が行なわれています。次に形式知の伝達と普及を図ること。そこでは形式知の移転や共有には情報技術が盛んに用いられます。ただし、単にドキュメントや意味情報の共有だけでなく、周辺の文脈を共有することが重要です。したがって、前提としてのコミュニケーションや言語のインフラ、ネットワークが不可欠です。これらに基づき形式知の編集を行い、新たな組み合わせを生み出すのがこのプロセスの本質です。ここでは、グループ間、部門間が基本単位となります。内面化。内面というのは自己の内面です。内面化は、形式知を暗黙知にするプロセスです。つまり、組織的に形式化された知識を自分自身のものとして採り入れることです。それにはまず、行動、実践を通じて身体化すること、それからシミュレーションや実験を行なって、オリジナルの知識を再現獲得することが求められます。ここには、組織の中の一個人や集団が創造した知識、つまりコンセプトや戦略が組織的に正当化され、その後、再び集団や一個人のレベルまで至る、一連のプロセスが集約されています(111頁参照)。