加護野忠男・野中郁次郎・榊原清則・奥村昭博共著の『日米企業の経営比較―戦略的環境適応の理論―』と | 松陰のブログ

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加護野忠男・野中郁次郎・榊原清則・奥村昭博共著の『日米企業の経営比較―戦略的環境適応の理論―』という書籍を紹介する。

日本的経営がもてはやされていた時代。日本の経営と米国の経営の違いを示した意欲作が加護野忠男氏・野中郁次郎氏・榊原清則氏・奥村昭博氏共著の『日米企業の経営比較―戦略的環境適応の理論―』という書籍です。日本企業291社、米国企業227社が13頁におよぶ質問票に回答し、その回答をもとに分析した結果が報告されています(頁参照)。

加護野忠男氏、野中郁次郎氏、榊原清則氏、奥村昭博氏は、横軸に組織編成に関するグループ・ダイナミクスとビュロクラティック・ダイナミクスを取り、縦軸に戦略に関するオペレーション志向とプロダクト志向を取った四つの象限を持つマトリックスを示しています。まず、第一は、H(ヒューマン・リレーション)型で、グループ・ダイナミクスとオペレーション志向に対応する象限です。第二は、V(ベンチャー)型で、グループ・ダイナミクスとプロダクト志向に対応する象限です。第三は、B(ビュロクラシー)型で、ビュロクラティック・ダイナミクスとオペレーション志向に対応する象限です。第四は、S(ストラテジー)型で、ビュロクラティック・ダイナミクスとプロダクト志向に対応する象限です。四つの純粋型の特徴を明確にするには、次の点について、それぞれの特徴を抽出することが有効です。それは、組織的統合と情報プロセッシングの手段、影響力の分布と組織形態、知識・情報の蓄積のパターン、トップ・マネジメントのリーダーシップ、機会や脅威への対応方法、環境適応の鍵と競争優位、情報志向と価値志向、です(229頁参照)。

H型適応パターンは、集団内・集団間の頻繁な相互作用、価値・情報の共有、緊張の醸成と注意の焦点、対人関係のネットワークを通じて組織的統合が達成され情報処理が行なわれます。意思決定への影響力は組織内に分散し、組織の形態は連結ピン方です。組織の末端をも含めた様々な場所で学習活動が行なわれ、相互作用を通じて知識や情報が共有されます。グループ間の関係は、各グループの自律的な環境適応を許容できる程度にルースです。トップ・マネジメントは宣教師に似ており、一般的な方向と理念を組織内に浸透させるような行動を示します。環境の機会や脅威は組織の末端で感知され、帰納的かつインクリメンタルに環境への適応が行なわれます。環境適応の鍵となるのは、オペレーションの効率化あるいは製品特性の小さな差であり、シナジーと適応スピードが重視されます。現場情報や顧客との接触を通じて得られる情報が重視され、組織全体の一体感の維持が重視されます。このような環境適応パターンでは、人の要素が大きな比重を占めるので、加護野忠男氏、野中郁次郎氏、榊原清則氏、奥村昭博氏はこのパターンをH型と名づけました(230頁参照)。

V型適応パターンは、頻繁な相互作用と価値・情報の共有、技術や製品へのコミットメントの形成、チームやタスク・フォースの形成によって組織的統合と情報処理が行なわれます。企業は小さなチームの連合体であり、トップが強固なリーダーシップを発揮するとともに、各チームは高度の自律性を持っています。知識や情報の蓄積は、個人あるいはチームの学習活動に依存しています。イノベーションのためのノウハウは標準化、体系化が困難であり、組織内のスターの行動を模倣する(モデリング)という形で、伝承されます。トップ・マネジメントは企業者的リーダーシップを発揮します。機会や脅威への対処の仕方は能動的であり、製品イノベーションが実験主義的に行なわれます。環境適応の鍵になるのは製品の独自性であり、競合相手をイノベーションで先行することによって、競争優位が確立されます。鮮度の高い技術情報や顧客情報が重視され、リスクへの挑戦が支配的な行動規範となります。このような環境適応行動を示すのはベンチャー型の企業です。その意味でこのような環境パターンをV型適応と呼びます(231頁参照)。

B型適応を行なう企業においては、規則、プログラム、階層、機能的分業と職務に応じた報酬を通じて組織的統合と情報処理が行なわれます。意思決定の権限はトップとエリート・スタッフに集中し、典型的な組織形態は職能別組織です。情報や知識は、エリート・スタッフの学習活動を通じて蓄積され、システム、マニュアル、規則という形で伝承されます。トップのリーダーシップはテクノクラート型です。環境の機会や脅威への対処は受動的であり、量的な適応を除いて、変化への対応は消極的です。変化に対して、安定した活動領域をいかにして防衛するかが重視されます。環境適応の鍵になるのは生産効率であり、競争優位はコスト優位に求められます。内部あるいは市場についての定量的情報が重視され、合理性、計画性、手続きの遵守が支配的な行動規範となります。このような適応パターンを示す企業では、社内のビュロクラシーが重視な役割を占めるので、このような適応パターンは、ビュロクラシー型あるいはB型適応と呼びます(232頁参照)。

S型適応を行なう企業においては、組織的統合や情報処理の手段となるのは、階層、自己充足化、垂直的情報チャネル、計画、目標、業績主義の報酬です。標準的組織形態は事業部制であり、オペレーションに関する意思決定の権限は分権化されていますが、資源配分の権限はトップに集中し、財務部門や戦略スタッフが大きな発言力をもっています。知識や情報は、エリートの学習活動によって蓄積され、エリートへの情報伝達が可能になるような情報システムが整備されています。事業の買収という形で、知識や情報が獲得される場合もあります。トップ・マネジメントのリーダーシップは将軍型であり、戦略スタッフの援助のもとにダイナミックで整合的な戦略展開を行います。この適応パターンをとる企業は、環境の機会や脅威を予測し、それに対応するための戦略計画を策定します。この戦略計画をもとに演繹的な環境変化への対処が行なわれます。変化への適応の一つの鍵となるのは、資源展開です。個別市場での競争優位は、自社の強み、弱み、競争条件、事業単位の使命を考慮に入れて、論理的・分析的に確立されます。定量・定性情報が体系的に収集され、計画の首尾一貫性、戦略計画の一貫した実行が行動規範となります。そのため、体系的な予測情報が重視され、戦略的な一貫性と計画の遵守が行動規範となります。このタイプの環境適応において、戦略が重要な役割を占めるので、それをS型と呼びます(233頁参照)。

調査結果、日本企業の平均的な適応パターンはH型適応パターンで、米国企業の平均的な適応パターンはS型適応パターンだと判明しました。そして、これからの日本企業の適応のあり方として、『日米企業の経営比較―戦略的環境適応の理論―』では、V型適応パターンを推奨しています(254頁参照)。B型適応はあまり創造性には適していないようです。まあ、ビュロクラシー型で創造性を発揮したというと異質ですので、珍しもの好きで話題性があれば何でも報道するマスコミが取り上げてくれるかも知れません。無料で宣伝してくれるのですから、よい商品広告になりますね。ビュロクラシー型で創造性を発揮という形式(実質的にはビュロクラシー型ではなくても)さえあれば、確かに異質に見えます。それでテレビなどで取り上げてもらえれば、ものすごい広告効果です。商品広告のために話題を提供するのも悪くない戦略です(笑)。