門倉貴史著『イスラム金融入門』という書籍を紹介する。 私がこの書籍を読もうと思ったのは、 | 松陰のブログ

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門倉貴史著『イスラム金融入門』という書籍を紹介する。

 

私がこの書籍を読もうと思ったのは、イスラム金融は利子がないという話を聞き、利子がなくて金融機関は、どのように経営をしているのだろうかと疑問を持ったからです。

 イスラム金融に金利がないのは、イスラム教やそれに基づく「シャリーア」(イスラム法)の影響によるそうです(24頁参照)。「シャリーア」の中で、信仰に関する部分は「イバダード」、日常生活に関する部分は「ムアラマート」と呼ばれて区分されています。イスラム金融は「シャリーア」の中にある「ムアラマート」で定められた金融活動の規範に適合した金融取引を指します。「シャリーア」では、金銭の使用に際して利息を課すこと、契約中の不確実性、投機的な行為、豚肉、酒類、タバコ、武器、ポルノなどの使用やその取引を禁じています。これらの禁止事項に抵触しない金融取引のみが認められています(26頁参照)。

 利子がなくて金融機関がどうやって利益を捻出しているかと言うと、「ムラーバハ」、「イジャーラ」、「ムダーラバ」、「ムシャーラカ」という四つの取引形態で営業をしているようです。「ムラーバハ」は、銀行がお客様の代わりに商品を購入して、その商品に一定のマージン(利益)を乗せてお客様に販売するという仕組みです。「イジャーラ」は、アラビア語で「賃貸借契約」を意味する言葉で、リースの形態を使ったイスラム金融のことです。「シャリーア」は、モノの所有を「所有権」と「用益権」に分けているので、「イジャーラ」では、モノの所有のうち「用益権」の部分を切り離して銀行がお客様に販売することになります。「ムダーラバ」は、銀行が投資家(ムダーリブ)からお金を預かって、そのお金を様々な事業に投資します。そして、その事業から得られた収益を、あらかじめ決められた割合で、投資家と事業者で分け合う「イスラム金融」のことです。「ムシャーラカ」は、銀行と投資家が手を結んで、事業の共同経営を行うというイスラム金融です。「ムシャーラカ」では、共同経営というかたちになるので銀行が経営に口を出してきます。事業によって得られた利益は、投資家と銀行の間で分け合うことになります(31頁参照)。

 イスラム金融の世界では、この四つのタイプがビジネスの基本になりますが、この四つのタイプをベースにして、それを応用した様々な金融商品が開発されています。イスラム金融の応用編のひとつとして、イスラム金融債(スクーク)が挙げられます。スクークというのは、イジャーラやムシャーラカをベースにしてつくられた金融商品です。スクークの仕組みは、国債や社債とほとんど同じなのですが、イスラム金融の枠組みなので、投資家がスクークを購入しても元本に金利はついてきません。金利を受け取る代わりに収益の配分やリース料を受け取るというかたちになります(37頁参照)。この書籍を読むに当たり、この五つの取引形態を知っていれば理解できると思います。

 金利に関して言えば、日本銀行が行っている公開市場操作をイスラム金融を採用している国家ではどうしているのかという部分に関して記載して欲しかったと思います。その点については記載されていませんでした。しかし、金利は「割引現在価値」などの金融用語があるように、実質金利の部分があるので、例え金融慣行に(名目)金利がなくても、物価の変動により、金利の変動は生じます。そのことに関して、私が尊敬するイギリスの偉大なる経済学者のケインズが「貨幣利子率とは貨幣の先渡契約額、例えば一年後先渡契約額の、いわば「現物」あるいは現金価格とでも言うべきものに対する超過率に他なりません。そうだとしたら、どのような種類の資本資産についても貨幣に対する利子率との類比でそれぞれの利子率が存在するに違いありません。どの耐久商品を取ってもそれぞれに自己表示の利子率が存在します(『雇用、利子および貨幣の一般理論(上巻)』 ケインズ著 312頁参照)。貨幣利子率は他の全ての商品利子率のペースメーカーとなっています(『雇用、利子および貨幣の一般理論(上巻)』 ケインズ著 330頁参照)」と述べていることからも伺えます。

  この『イスラム金融入門』という書籍は、イスラム金融というよりも新興国やこれから成長してくるであろうと思われる国々の内情を紹介する書籍でした。「MEDUSA」(メデューサ)というマレーシア(M)、エジプト(E)、UAEのドバイ首長国(DU)、サウジアラビア(SA)の国々のグループと、「BRICs」というブラジル、ロシア、インド、中国の国々のグループと、「VISTA」というベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチンの国々のグループの紹介をしています。そのグループの国々の内情を記載していました。この書籍の発行日は2008年5月だったのですが、紹介した国の中で、出版後、ドバイはドバイショックと言われる金融破綻をし、エジプトでは騒乱によりムバラク大統領が失脚するなどと、かなり状況が変わってしまっていました。発行日を念頭に入れながら読書することをお勧めします。