以前、今野紀雄氏の『つながりの数理―複雑のネットワーク入門―』という講演を聴きに行ったことがあり | 松陰のブログ

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以前、今野紀雄氏の『つながりの数理―複雑のネットワーク入門―』という講演を聴きに行ったことがあります。とても面白く、有意義な講演会でした。今野紀雄氏は自己紹介において、研究しているコンタクト・プロセス(接触過程)について述べました。伝染病など、相互作用によってどう自己発展していくかの研究だそうです。併せて、氷→水→水蒸気への相転移についても述べていました。相転移に関しては、清水博著『生命を捉えなおす』で分かりやすく記載されています。次に、量子モデル。シュレーディンガー方程式、デラク方程式などを挙げていました。今野紀雄氏自身はランダムウォーク(酔っ払いモデル)を研究しているようです。量子という小さい世界ではどのような酔っ払い(ランダムウォーク)が行なわれているのかということです。植物の光合成の原理が解明されていないようですが、それを微小な酔っ払い(ランダムウォーク)で解析しようと試みがあるようです。壮大な宇宙モデルも微細な量子力学が重視されています。なぜならば宇宙の始点は小さな一点でした。初期を知るには、小さな一点である世界、つまり量子モデルが重要なのです。その後のダイナミックなプロセスが宇宙論になります。確率論は当初、規則正しいものを扱っていました。それは数学的に扱いやすかったからです。しかし、現在は複雑系が注目されつつあり、不規則な確率を求めつつあります。複雑系に関しては、E・ヤンツ著『自己組織化する宇宙』、I・プリゴジン著『混沌からの秩序』、A・ケストラー著『ホロン革命』、スチュアート・カウフマン著『自己組織化と進化の論理』などの書籍に記載されています。複雑系のネットワークには、多くの構成点と複雑な繋がりがあります(対象と関係を点と線で表す)。複雑性の条件です。構成点とは、全体における駅、空港、神経細胞などが該当します。複雑な繋がりとは、全体における取引、幹線、ハイパーリンクなどが該当します。複雑系ネットワークの研究は学際的な分野だそうです。数学と物理学と社会学との交わり(共通部分)に属する研究分野だということです。1736年にケーニヒスベルク問題(一筆書きで橋を渡る問題・同じ橋を一度だけ通る)をレオンハルト・オイラーがグラフ理論を駆使して解きました。グラフにすると構造が単純であることが分かります。次数(ディグリー)と頂点を使ったのです。連結グラフが一筆書き可能な場合の必要条件が全ての頂点の次数が偶数であることなどが分かるのです。グラフには有向グラフというものもあります。向きが付いたグラフです。しかし、向きが付くことによって数学的解析が難しくなるようです。複雑系のネットワークを客観的に検証できる三種神器があります。それは、次数、頂点間距離、クラスター係数です。その三つの要素の量を測ることにより、複雑度が分かります。ちなみに、クラスター係数のクラスターとは塊のことです。数学では通常、三角形を一塊として計算するようですが、今野紀雄氏は三角形で測ると都合の悪い場合もあるので注意するようにと述べていました。三種神器を測り、比較することにより複雑さを見るようです。次数相関の研究は西洋の方が進んでいるようです。そこで、今野紀雄氏は日本発の研究をするため、黒幕モデルというものを研究したそうです。友達の多さをグラフ化する場合、多くの友達がいる人をハブとしますと、そのハブと繋がっている人を黒幕と定義したそうです。つまり自分は友達が少ないが、友達と繋がっている人をたくさん持っていて、裏にいて目立たない人を黒幕として研究したそうです。今野紀雄氏は東洋的な数理モデルでしょうと自慢していました。グラフの中には、その人を除いた場合、どのくらい繋がっているかを示す媒介中心性という指標の重要性も語っていました。次に、規則的なグラフについて。一次元格子、二次元格子、三次元格子についての説明。研究の中でパーコレーションを知ることが難しいそうです。パーコレーションとは例えば規則正しい平面に水がどのように浸透していくかを予測することです。ここで、今野紀雄氏が面白い話を教えてくれました。数学のノーベル賞といわれるフィールズ賞。それまで確率論の研究でフィールズ賞を取った人はいませんでした。確率ではフィールズ賞は取れないといわれていたそうです。初めて確率論でフィールズ賞を取ったのが、ウェンデリン・ウェルナー氏で、パーコレーションで受賞したそうです。4年に一回のフィールズ賞ですが、その次もスタニスラフ・スミルノフ氏がパーコレーションでフィールズ賞を受賞し、二回連続でパーコレーションの研究が評価されたそうです。パーコレーションが注目されたのは、オデッド・シュラム氏が確率微分方程式というギザギザに進行する運動を平面で表す方程式を使い、物理における火災の端から進行するギザギザ運動が一致することを発見したことに始まります。オデッド・シュラム氏はフィールズ賞の候補者だったのですが、受賞時に40歳を越えており、フィールズ賞は40歳以上は受賞できない規定により、受賞できなかった悲劇の数学者らしいのです。フィールズ賞を受賞したウェンデリン・ウェルナー氏とスタニスラフ・スミルノフ氏はオデッド・シュラム氏のお弟子さんだそうです。さらに悲劇なのは、そのオデッド・シュラム氏は山でハイキング中に事故死してしまったそうです。講義の内容が充実していたので、全ては書ききれません。重要なものとして、スモールワールドとスケールフリーの解説もありました。スモールワールドでは、ダンカン・ワッツ氏とスティーブン・ストロガッツ氏が有名です。スケールフリーではバラバシ氏とレカ・アルバート氏が有名です。ワッツ・ストロガッツモデルでは、ショート・カットを激減させ、クラスター係数が減りませんでした。有用な理論でしたが欠点があり、ベキ分布にはならなかったのです。そこで、バラバシ・アルバートモデルが登場します。優先的選択によりベキ分布ができました。しかし、クラスター係数が小さいという欠点が残ったのです。現在はこの二つの長所を配合した理論が成立しているそうです。最近、量子ウォークの論文が急増しているようです。論文が急増しているということは、それだけ注目されている分野だといえるのでしょう。充実した講演でした。逸話もたくさん聞けて非常に面白かったです。