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森俊範著『「くちコミ」の研究』という書籍を学生時代に読破しました。

 昨今、インターネットの普及によりデジタルのコミュニケーションが注目されていますが、消費行動に強く影響を及ぼすコミュニケーション・ツールに「くちコミ」があります。アナログではありますが、強く消費に影響を持っています。くちコミとは、くちコミュニケーションのことであり、人類が言葉を獲得した時から始まった最古のコミュニケーション手段です。森俊範氏著の『「くちコミ」の研究』という書籍は、くちコミ現象と消費、くちコミ現象と広告、くちコミ現象とマスコミュニケーションとの関係から探ろうと試みたものです。現代の生活者を見ると、あらかじめマスメディアが用意した情報を一方的に受信するよりも、自分自身の持つ情報を発信し社会に反映させたいという欲求が高まっていることは確かです。その意味で生活に関する様々な情報というものを、くちコミという現象を通して、生活者個人の視点で捉えています(3頁参照)。

 森俊範氏著の『「くちコミ」の研究』という書籍で興味深いのは、アイスクリーム店の行列現象に関する記述です。深夜の交差点でひときわ明るいアメリカンハウス的な高級アイスクリーム店が東京・西麻布に誕生したのは昭和60年のことでした。アメリカ西海岸から上陸したとして人気を集めるホブソンズは昼夜を問わずヤングの行列が続きます。開店して一年間は、閉店時間の明け方4時まで、列が途切れることは、滅多にありませんでした。冬場においても行列は減少しません。むろん「宣伝したわけではないのに、これほどの行列をつくるのは不思議」と経営者自身が語ります。客単価は平均400~500円。高級アイスクリームと名乗るだけあって、割高だが、フレーバーからトッピングまで、自分の好みに合わせたアイスクリームを味わえます。一日平均75万円から95万円の売上げをわずか十数坪の店舗面積で確保しています。平均来客数は、1,000人前後です。このホブソンズの行列現象の秘密は、「並ぶ」ことを敢えて意図したかに見せる店舗設計にあります。深夜の交差点に冬場でも行列をなす店があれば、必要以上に目立ち、並んでいるお客様が宣伝メディアと化すからです。いかにも人気のある店というイメージを、通過する人々に与えます。一度に店内に入れる客数は、わずか3~4人であり、しかも注文してから2~3分はかかります。お客様が10人も来れば、もう行列の始まりです。2階の客席も5~6席と限られ、必然的にお客様は並ばざるを得ないのです。買うまでに15~20分は平均して並ばなければ、アイスクリームは食べられません。その間に、食べたいという気持ちと美味しさへの期待感が相まって、味覚に対する心理的効果は増大します。20歳を中心にしたヤングが列をつくる中で、人気の様子をくちコミで知った、OLやヤングサラリーマンも「是非一度、ホブソンズのアイスクリームを」というわけで、参列します。並ぶことがファッションということで、流行のアイスクリームを求めるまでに仕立てた経営者の腕は立派というほかありません。初期の話題をつくりあげた効果は大きく、「並ぶほど美味しいアイスクリーム店」として、ヤング層の支持を得たのです(90頁参照)。

  時期は前後しますが、こうした行列現象で最初に話題を呼んだのは、「ハーゲンダッツ」です。アイスクリーム・ブームに火をつけたブランドのひとつです。「天然100%」を売り物にしたアメリカ生まれのアイスクリームで、昭和59年11月に東京・青山に一号店を出店しました。やはり、ホブソンズと同様、長蛇の列が出来たのです。ハーゲンダッツの場合、出店時にマス広告を展開。次に、くちコミ効果を狙った演出をしました。「並ぶほど美味しい」という光景づくりです。ハーゲンダッツの知名度は、この行列現象で一気に上昇し、その後の市場開拓戦略に貢献することとなります。つまり、最初に知名度はあげるが、なかなか消費者には手に入らない状況をつくり、「是非、食べたい」という欲求を先行させることで初期の導入角度をあげるわけです。その人気を集めている実績をもとに、系列化の飲食店や高級スーパーに販路を急速に拡大、全国展開を行いました。誰でも買えるという状況からスタートするよりも、なかなか手に入らない状況をつくり出し、消費者心理をくすぐることで大変有効な展開がなされたわけです(92頁参照)。

 このアイスクリーム店の成功物語は古い事例ではありますが、そのエッセンスは現在にも通じるものです。今でも企業はくちコミを重視し、好意的なくちコミが広がることによってヒット商品を作り出そうと企てています。アナログなくちコミの影響力は現在でも大きいのです。