宮沢健一著『業際化と情報化―産業社会へのインパクト―』という書籍を紹介する。 工業化時代の「規 | 松陰のブログ

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宮沢健一著『業際化と情報化―産業社会へのインパクト―』という書籍を紹介する。

工業化時代の「規模の経済性」の追求からシフトが起こり、情報化社会には、多角化の「範囲の経済性」の追求に移ったと、しきりに説かれるようになりましたが、実はそれだけでは、問題のつかまえ方としては十分ではありません。情報化進展の時代から、情報ネットワーク化の時代に移行し業際化が進んでいる現代では、「連結の経済性」の追求というべき局面がひらけていると見るべきだからです(頁参照)。

工業化時代の規模の経済性の背後にあるのは、もちろん大量生産、分業のシステムです。ところが最近の情報化社会に入ると大量生産から少量多品種生産の型が移ってきました。その傾向がますます強まってきました。その背後には、少量生産でも効率の上昇を可能にさせた技術進歩があります。範囲の経済性というのは、そういう少量多品種生産を可能とするような経済性が成立していることを分析するための概念です。しかし、情報化進展の時代から、情報ネットワーク化の時代に進むと、もう一つ、ネットワークの結びつきが生む経済性が開かれつつあると言えます。この第三局面は「連結の経済性」と呼んでよいと思います。すなわち範囲(スコープ)の経済性のほかに、連結(ネットワーク)の経済性があり、それがどういう意味を持つかを問題として考える必要が出てきました。また、「分業」というのも、ただ単に、手分けをするのではなく、統合するという形の方向に変わってきています。分業から統合へのシフトです。もちろんそうは言っても、分業による専門化がなくなるわけではありません。今までは分業はそれぞれが分立して、いずれも主として大量生産型が中心で、分担がなされてきました。この型の分業は、いわば「分立型分業」です。これからはそうではなく、諸活動が連結した、統合された形での分業、いわば「連鎖型分業」へという形に進むであろう、と考えております。こうした動向は、市場構造に対して開放化と閉鎖化との双方の効果を生みますが、そのいずれが強くあらわれるかを考察する際に、新しい視角が必要となります。かつて工業化社会における効率追求は分業と規模の経済性にあったわけですが、情報ネットワーク社会への移行は、その姿を変えます。象徴的に言えば、「分業」から「統合」による効率化へのシフトであり、また「規模の経済性」から「範囲の経済性」、さらには「連結の経済性」への移行です。「範囲の経済性」がなぜ発生するのかの要因としては、ある製品のプロセスの中に、他の製品にとってコストなしで転用可能な「共通生産要素」が含まれていることです。そうした共通生産要素の例として情報やノウハウがあげられますが、しかし情報ネットワーク社会における経済性の追求は、もう少し広い領域で、情報やノウハウを活用するところにあります(50頁参照)。

情報化が新しい段階に入ってなぜネットワーク化が進むのか。それは経済性が発揮できるからです。それは四つの論点から見ることができます。そのうち最初の三つは「連結の経済性」というものの見方と「範囲の経済性」と比較してあります。まず「範囲」の経済性と「連結」の経済性の対比におけるの点は、経済性が生ずる局面の比較です。範囲の経済性がなぜ生じるかと言うと、共通の生産要素がAという活動からBという活動に移せるというインプット面を重視しているわけです。これに対して、「連結」の経済性とは、そういうインプット面だけではなく、情報やノウハウが核となって、組織間、主体間の結合によって、相乗効果、シナジー効果などが発揮されるという面にも着目します。つまり、コストを越えた、それを上回る効果がアウトプットの面にも出ています。それからの点は、インプットに限定してもということです。範囲の経済性は、企業の、あるいは組織の中にある資源を共通生産要素として活用する、内部資源の活用ということです。しかし、各々の企業あるいは組織が持っている内部資源だけではなく、その外にある、他の企業や組織の資源を活用させて結びつける活動面にも、経済性の成立の場面があります。つまり共通の要素というだけではなくて、情報などを共有する、ネットワークを作って共有します。「共通」要素というより、「共有」要素こそが、もう一つの核になっているからです。次には、主体行動の側面です。範囲の経済性というのは、主として単一主体、単一組織の立場に立って、その主体による複合生産をとらえるための考え方です。これに対して、連結の経済性の場合は、複数の主体の間の結びつきが、知識、技術の多重利用によって生む経済性です。範囲の経済性が「多角化対応」であるとすれば、連結の経済性は「主体連結対応」です。要するに、主体間の業際化、それが結びついている点が重要です。それから、番目として、コンテスタブル・マーケット(表面上は独占的でも、新規参入・退出によって常に争われる<コンテスト>余地さえあれば、効率性が満たされる可能性ありとみる発想)の理論ではなく、もう一つの新しい考え方です。「内部組織の経済学」の見方との対比、という側面があります。内部組織の経済学という考え方は、取引を完結するのに、市場に任せるか、あるいは自分の企業の規模を大きくして組織の内部で解決するか、という新しい視点を導入しています。「市場」という場の他に、資源を色々結びつける場としての「組織」、市場に代わるものとして「内部組織」を位置づけなければならないという見方です。これは市場を通じた取引を扱うか、内部組織を拡大したり合理化してその中に吸収して扱うか、そのどちらかを選ぶ方が取引コストの節約に繋がるかという見方ですが、その中間形態として「中間組織」もあるという考え方が発想として出てきました。この中間組織という考え方と、連結の経済性とは似ています。姻戚関係にあります。組織として合同し一体化するのではなく、それぞれ独立している企業が、グループを作ってそこで情報交換をします。日本では非常に多い形態です。しかし、市場と組織との中間の形態という見方とも違って、市場と組織体とを繋ぎ連結する第三のシステムが生まれています。中間組織というよりは、「連鎖型組織」が誕生しました。これがネットワークです。市場と組織とを繋ぐ第三の社会調整システムとして、ネットワークが「連鎖型組織」として生まれ機能しています(54頁参照)。

「業際化」とは、産業、業種、業態という今までの垣根が、とりわけ情報化によって低下し、相互乗り入れによる新しい競合関係、あるいは新しい協力関係が生じていることを言います(6頁参照)。まさに最近の電気自動車業界は業際化されているように思われます。従来、自動車業界と電気機器業界にははっきりと垣根がありました。しかし、電気自動車の開発により、自動車業界は電気機器業界と提携するようになりました。技術と商品が業界の垣根を取り払ったのです。アメリカはボストンを中心とする自動車企業が自動車産業の中心でした。しかし、シリコンバレーのテスラ・モータース社がテスラ・ロードスターを発売し、業界の形態が変わりつつあります。技術の進歩は産業の垣根を変えてしまうものなのです。