木村資生著『生物進化を考える』という書籍を紹介する。  進化論というと自然淘汰が思い浮かび、適 | 松陰のブログ

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木村資生著『生物進化を考える』という書籍を紹介する。

 進化論というと自然淘汰が思い浮かび、適者生存の理論を想像します。何か弱肉強食のようなイメージがしますよね。しかし、自然淘汰だけではない進化論があるという話を聞き、調べてみると、木村資生先生が提唱した中立進化説というものがあると知り、木村資生氏の書籍を購入しました。常々、私には本当に生物界は強者しか生きていけないのだろうかという疑問があったからです。その疑問に関する何かのヒントを得たくて読破しました。

 中立(進化)説とは、自然淘汰に中立な突然変異の偶然的浮動が分子レベルでの進化で主役を演じているとする説です。分子レベルの進化と変異に関するデータにおいて、哺乳動物のゲノム(半数染色体組)当たりの変化率を見てみると、進化の過程で哺乳動物の種は平均して二年に一個くらいの率で新しい突然変異(DNA塩基の変化)を蓄積してきた(すなわち種内で置き換えしてきた)という推定値が得られました。次に、種内変異については、電気泳動法を用い酵素タンパク質について種内変異を調べた当時のデータはヒトやショウジョウバエの集団では、各個体は1000以上の遺伝子座でヘテロ接合の状態にあると考えられる結果が出てきたことから中立説を提唱した理由だそうです。これは以前に考えられていたより遥かに高い遺伝的変異です(54頁参照)。若干の補足をしますと、遺伝的な形質は体内に含まれる遺伝因子(メンデルは「エレメント」と呼んだ)によって決まります。優性遺伝因子を大文字A、劣性遺伝因子を小文字aで表します。遺伝学ではAとaは対立遺伝子と呼ばれ、AAとaaの組み合わせを「ホモ接合体」、Aaの組み合わせを「ヘテロ接合体」と呼びます(19頁参照)。遺伝的浮動とは、遺伝子頻度が偶然的に世代とともに増減する現象のことです(32頁参照)。

 中立説が正しければ、分子レベルの突然変異(DNA塩基の変化)、特に中立突然変異の起こる率は環境条件、集団の大きさ、一世代の長さにほとんど影響を受けないとのこと(222頁参照)。しかし、中立説を解釈する上で注意も促しています。第一は、中立説が全ての突然変異が淘汰に対し中立であることを主張しているわけではないこと。第二は、ダーウィン流の淘汰に有利な突然変異についてで、このようなものの存在を決して否定するわけではないが、中立説では、有利な突然変異はごくまれにしか起こらないので、通常の分子進化速度を扱うには無視してもさしつかえないと仮定していることです(228頁参照)。つまり、ダーウィンの自然淘汰を完全には否定していないようです。この中立説を立証する上で、偽遺伝子(既知の正常遺伝子と塩基配列の上で非常に似ているが、正常遺伝子から重複によって生まれた後、何らかの理由で遺伝子としての機能を失ったもの)(57頁参照)やモンテカルロ法(164頁参照)などが貢献したようです。また、DNAレベルで、塩基を置き換えた時、同じアミノ酸のままでいる変化を同義的置換と言い(200頁参照)、アミノ酸を変える変化を非同義的置換と言います(241頁参照)。そして、同義的塩基置換は進化の過程で非常に頻繁に起こっているようです。生物体をつくり生命を維持する上で根本的な役割を果たすのはタンパク質で、その機能は立体構造に依存しますが、これは最終的にはアミノ酸配列によって決まることを考えると、DNA塩基の置換えのうちでアミノ酸に変化を起こすものは、それを起こさないものより表現型に対して一般にはずっと大きな影響があるはずです。一方、自然淘汰は個体の表現型に働き、個体の生存と繁殖によって決まるから、当然、アミノ酸に変化を与えるような同義的突然変異は自然淘汰にかかりにくいということも挙げています(212頁参照)。

 この『生物進化を考える』という書籍で興味深かったのは、蛾の工業暗化の話です。工業暗化とは、工業都市及びその近郊で蛾の多数の種類が本来の淡色型から次第に黒色型に移行していった現象のことです。鳥から身を守るため、地衣におおわれた樹木に生息している時は、保護色の淡色型の翅の模様だったのが、工業化により工業地帯が煤煙で周囲が黒くなると、その環境に合わせて、蛾の翅が小鳥に発見されづらい黒色型に変化したというのです(36頁参照)。生命の逞しさと環境への順応性に感心してしまいました。また、この書籍でもレイ・カーツワイル著の『ポスト・ヒューマン誕生』という書籍の449頁に紹介されていたSETI(地球外知的生命体探査)に対するフェミル・パラドックスの話題が283頁に記載されていました。

この『生物進化を考える』という書籍には、スペースコロニーの話題も掲載されていました(279頁参照)。現在、CO2の排出量や地球温暖化が問題視されていますが、人間は酸素を体内に入れ、二酸化炭素を体内から排出しなければ生きていけません。ましてや現在でも地球の人口は増加していますので、その問題は深刻化するばかりです。そうなると、物理的な問題として、いずれ地球自体のキャパシティーを越えてしまうのは時間の問題だと思います。地球のキャパシティーを越えるほどに人口が増えたら、後は地球以外の場所に住むしか方法はありません。遠い将来、地球以外の惑星に住めるような技術の開発が必要だと思います。スペースコロニーを作り、人口爆発によって地球のキャパシティーを越えてしまった問題を解決するのです。その時のための準備は今からしておかなければならないと思います。宇宙工学の発展に期待しています。通説の書籍だけでなく、違った視点からの書籍を読むことも自分の中に多様性を育むことができるので良いことだと考えています。