NHKの『オイコノミア』 | 松陰のブログ

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NHKの『オイコノミア』

私の大好きなイギリスのケインズ先生に拠れば、貨幣に対する利子率は雇用水準を制限するのに特有の役割を演じています。資本資産を新しく生産することが、限界効率が到達しなければならない基準を与えるからです。この因果関係が成立するには、解決しなければならない三つの疑問がでます。それは、①他の諸資産とは異なる貨幣の特性とは何か?②利子率を持つのは貨幣だけなのか?③非貨幣経済ではどのようなことが起きるのか?です。この疑問を解決する過程において、貨幣の経済における重要性が浮き彫りにされます(『雇用、利子および貨幣の一般理論(上巻)』ケインズ著 312頁参照)。

①に回答。貨幣と他の全て(あるいはたいていの)資産との根本的な相違は、a貨幣の場合、流動性プレミアムが持越費用をはるかにしのいでいます(流動性プレミアム>持越費用)。b他の資産の場合、持越費用が流動性プレミアムを大きく上回っています(持越費用>流動性プレミアム)。資産の流動性プレミアムとは資産の収益や持越費用とは別に資産の処分力の与える便宜や安全性に対して人々が喜んで支払うそれ自身で測られた額のことです(『雇用、利子および貨幣の一般理論(上巻)』ケインズ著 318頁参照)。持越費用とは収益を生むのに用いられる、用いられないに関わらず、時間が経過しただけで、いくばかりかの損耗を被ったり、何がしかの費用を要したりし、その費用のことをいいます(『雇用、利子および貨幣の一般理論(上巻)』ケインズ著 317頁参照)。

②の回答。どのような種類の資本資産についても貨幣に対する利子率の対比でそれぞれの利子率が存在します。自己表示の利子率が存在するのです(『雇用、利子および貨幣の一般理論(上巻)』ケインズ著 312頁参照)。ケインズは、収益(q1)、持越費用(-c2)、流動性プレミアム(l3)の相関関係を、貨幣と小麦、家屋という耐久商品との対比で述べています。(1)家屋は、収益が帰属しますが、持越費用、流動性プレミアムはほぼゼロ。q1=家屋―利子率。(2)小麦は、持越費用の影響は大きいが、収益と流動性プレミアムはほぼゼロ。-c2=小麦―利子率。(3)貨幣は、流動性プレミアムの影響は大きいが、収益と持越費用は無視できる程度。l3=貨幣―利子率。収益、持越費用、流動性プレミアムの特性を理解する上で関係性の深い家屋、小麦、貨幣を例示し、家屋、小麦、貨幣の時間的な経過における自己利子率の変化を比べることで、収益(q1)、持越費用(-c2)、流動性プレミアム(l3)の相関関係と、貨幣における自己利子率の安定性を示しました(『雇用、利子および貨幣の一般理論(上巻)』ケインズ著 323頁参照)。ここで①への回答へ戻り、追加します。貨幣―利子率の重要性は貨幣の持つ特性の組み合わせから生じます。その特性とは、(1)貨幣―利子率は、貨幣量の貨幣表示の他の形態の富に対する割合が変化しても、流動性動機のせいで、この変化に対して、いくぶん非感応的になります。(2)貨幣は生産、代替いずれの弾力性も共にゼロ、もしくは無視できる程度です。この貨幣の特性が故に、貨幣―利子率は他の全ての商品利子率のペースメーカーになるのです(『雇用、利子および貨幣の一般理論(上巻)』ケインズ著 329頁参照)。

③の回答。非貨幣経済では、個々の消費財と個々の資本装備以外には何も存在せず、そして、それらは全て、ストックとして保有する場合には、現金とは異なって価値の低下を被るかあるいは価値を維持するための出費を要し、その額はそれらがもっているかも知れない流動性プレミアムを凌駕しています(『雇用、利子および貨幣の一般理論(上巻)』ケインズ著 337頁参照)。私は、この記述を読んで、日本は江戸時代には禄高制度で米を収入の基本としていたことを思い出しました(『金融化の災い』大槻久志著 71頁参照)。貨幣が経済に対して多大な影響を与えていることが分かります。しかし、貨幣の供給が固定化されているのは自然な状態の時です。ケインズは、『雇用、利子および貨幣の一般理論(上巻)』の323頁には、「通貨当局ならいざ知らず」、324頁には、「通貨当局による供給は考えない」と、330頁には、「公的行動ならともかく」と記述し、通貨当局の介入がない場合を想定しています。このことは逆に、中央銀行の貨幣供給政策が経済浮揚をもたらすことを暗示しているように思えます。資本資産を新たに生産しようとする場合、その限界効率が到達しなければならないのは自己利子率が最大のものになりますから、全体を支配するのは、自己利子率が最大のものになりやすく、その最大値を与えるのは往々にして貨幣―利子率なのです(『雇用、利子および貨幣の一般理論(上巻)』ケインズ著 314頁参照)。そして、貨幣―利子率は他の全ての商品利子率のペースメーカーになるという重要な役割を果たしています。