落語家が居酒屋で飲むと

 

「繁昌亭にお客を呼ぶためには、

オモシロくない奴は出すな!」

 

と言う人がいる。これは果たして正解なのだろうか?

 

 

まず、大前提に

 

「個人の集客力を高める方法として、芸を磨く」というのは、

 

噺家個人としては真っ当な意見である。

 

 

しかし、これはあくまで個人については当てはまるが、

繁昌亭や噺家全体としては、この理屈は当てはまらない。

 

 

そもそも「芸の力でお客を呼ぶ」という行為は、

 

「芸の力を見比べるお客様が、噺家の中から面白い奴を選ぶ」


という前提である。つまり、「落語ファンの取り合い」の話である。
 

この場合、

 

芸の力をアップさせた噺家は、芸の力が低い噺家よりも集客数は

増えるが、落語ファンの総人口は変わらない。

 

つまり、繁昌亭に「芸のある人間」を集めれば、

繁昌亭以外の落語会の集客は落ちる・・・それでええのだろうか?

(この作戦を提唱する人は、

時間と場所の問題、お客様の小遣いには限界がある問題を

全く考慮していない)

 

 

そもそも、上方落語の定席=繁昌亭は、

 

(上方)落語を知らない人が初めて来て、

(上方)落語の面白さに触れる場所

 

である。だから365日、上方落語を見られるようになっており、

朝席も夜席も「あくまで上方落語が主体の興行」が行われている。

 

ここは上方落語の「標準」&「入門」であってよい。

 

おそらく、「オモシロくない奴は出すな!」論を言う人は、

私より上方落語の価値やパワーを信用していないのかもしれない。

素人が落語をやっても面白いぐらいの品質ですのに・・・(笑)

 

 

「おもろない奴を繁昌亭に出すな!」と言う人は、

自分の落語会で「オモロイと自分が思う奴ばっかり出る落語会」をすれば良いだけだ。

 

各個人が「オモシロい番組」と思う落語会をあちこちでやれば、

それこそ、繁昌亭で「標準的な落語」を見た人たちが、他の落語会に巣立っていける。

 

初心者が

インターネットで検索して「どの落語会に行くべきか」などはほぼわからない。

 

初心者は、通常、「上方落語」「落語」「寄席」などで検索するのだ。

だから繁昌亭に行く確率が増えるし、また初心者をドンドン繁昌亭に入れればよい。

その場合、初心者は「これが寄席か(標準形か)」と理解するので、

繁昌亭は「標準」であるべきなので、上方落語の標準形で良い。

 

※以前に「昼席で抜擢は不要」と書いたが、やはり標準形において、

メチャクチャ若い噺家がトリを取るのは初心者には違和感しかない・・・。

(だからやっぱり繁昌亭昼席に抜擢は不要だ・・・年功序列=標準があるからこそ、抜擢がいきるのだ)

 

 

日本の中で1つの家族だけが質素倹約に努めて

お金を貯めて儲けたとする。

では、それに倣って、全部の家族が質素倹約に努めれば

日本は不況になる。

江戸時代、藩政改革に成功した人が同じやり方で幕政改革に乗り出したら失敗するのと同じだ。

(これは知らんけど・・・)

 

厳密ではないが、おおざっぱに言えば、

 

芸の向上は「他の噺家からお客を奪うゲーム」である。

 

しかし、繁昌亭のお客を増やすという話は、

 

「落語ファンの総量(総人口)を増やすゲーム」

 

である。だから、落語という商品を多くの人に見せる事が大事だ。

 

 

実際、上方落語協会60周年の記念公演で、ほぼ全ての協会員が総出演した。

「それまで色んな理由で出演にストップがかかっていた人」や「初出演の若手噺家」も出た。

すると、「落語ファンではない新しい顧客」がやって来て、

色んな落語家を見て、落語ファンになった。

(※逆に去年、繁昌亭リニューアルでも「総出演」をしたが、

 一度「出てない人を放出しきってる」だけに、この時は、更なる新規顧客獲得は

 できなかった。全員ほぼ出ていたからだ。。。)

 

 

●繁昌亭のリピート率のデータとしては、

 

①繁昌亭に新規客が100人くると、そのうちの25人がもう1度来場する。(1回目→2回目のリピート率は4分の1)

②2回目来た人は、約90%の確率でもう1度来場する(2回目→3回目のリピート率は10分の9)

③3回目来た人は、約30%の確率でもう1度来場する(3回目→4回目のリピート率は10分の3)

④4回目来た人は、約90%の確率で10回ぐらい来る
 

というのがある。

つまり、新規100人を入れた場合、通算で、

 

1回目 100人

2回目  25人

3回目  22.5人

4回目   6.75人

5回目~10回目 6.075人(10回目の人数)

 

の来場が見込めるので、新規100人を入れると、通算190.7人を入れたも同然になる。

(このリピート率の高さが落語そのものの強みだ)

 

それゆえ、協会60周年では、「初出演の噺家」しか手に出来ない新しい顧客層を

開拓できた。だから、その後も、しばらく繁昌亭の集客は上向きになったのだろう(私の推測)

 

 

落語ファンのためだけの繁昌亭にすると、

新規客の座席を占有するかもしれない。

 

新規客が見込める時期に落語ファンに座られたら

落語と触れ合う時期が奪われる・・・。

 

逆に、一番ええのは、新規客が来ない時期に、

落語ファンにたくさん座ってもらうのだ。


だからお客さんの少ない時期にこそ、

 

「○○受賞記念ウィーク」とか「抜擢ウィーク」

 

をすれば良いと思う。そう!この時こそ、抜擢だろう・・・。

 

 

※ちょいちょいエライ師匠が、繁昌亭の集客作戦で、

 

「もっと芸を頑張ったらお客が来るから頑張れ!」

 

みたいな事を言う時がある。その時、私は必ず、

 

「もう皆、がんばってます・・・」

 

と、伝えています・・・。

 

★注意:もちろん全員の芸の向上は、繁昌亭=上方落語のリピート率の向上には大きな影響はあると思うが、

 新規開拓には大きな影響は期待できない。

 

※余談だが・・・・。

 

昔、「文楽」について橋下徹氏の補助金削減問題で、

「補助金がどうの」「公金に甘えてる」「お客が来ていない」などの話が出た。

その時に、技芸員の「芸」について言及するのはお門違いだ。

 

公金を使ってる以上、「集客作戦」は技芸員の手から離れる。

技芸員(の芸)は商品でしかない。それをどう売るかは、それこそ販売員の問題だ。

 

もし「もっとお客さんが手に取りやすい内容を企画すべき!」とか

「技芸員がもっと奔走しろ」とか言うなら、文楽を民営化すれば良い。

民営化せず、補助金を中途半端に出すから、経営者がお役所仕事になる。

(芸能の保存が重視になり、集客目的の芸能からずれていく)

 

その代わり、民営化したら大阪から文楽はなくなるかもしれない。

おそらく商売として東京に拠点を移していくだろう・・・。

まあ少なくとも大阪は地方公演の1つぐらいになるんだろう・・・。

知らんけど。