某テレビドラマや某有名飲食店などで昨今も話題となっている株式公開買付け、所謂企業買収について解説していこうと思います。

 
まずはじめに上場会社をはじめとする有価証券報告書提出会社の株式を一定割合以上取得する場合には、公開買付けが必要となります。
公開買付けによる株式の取得には非上場会社の株式譲渡契約に基づいた株式取得とは大きく異なり、種々の論点が存在します。
種々の論点のうちまだ文献やその他においても十分に説明や議論がされていないものの実務上において実際に公開買付けを行う上で問題になりうる事項について記載していきます。
 
公開買付けを実施する買付者とその公開買付けに応募する株主らとの間で締結する応募契約に関する実務上の留意点についてを説明していきます。
公開買付けを実施しようとする者(買付者)は公開買付けの成立の可能性を高めるため、公開買付けの開始前に、公開買付けの対象とする株式発行会社(対象会社)の大株主ら(応募株主)との間において、買付者が一定の条件にて公開買付けを開始した場合に、応募株主が当該公開買付けに応募する事を義務付ける大株主契約を締結する事があります。
応募契約とは株式の取得を目的とする点において株式譲渡契約とその性質が類似しているものの、相対取引ではなく原則として他の株主からも広く買い集める事を企図とした公開買付けを通じて株式を取得する事を目的とするために、一般の株式譲渡契約では問題となりにくい留意点が複数存在します。
 
なお、応募契約においては下記の二つに大きく分かれます。
1、応募株主が自身の保有する対象会社の株式を売却する事を企図している文脈において作成される場合(応募株主主導)
2、買付者が応募株主に対して対象会社の株式を売却依頼する文脈において作成される場合(買付者主導)
本稿では一般的な場合である2の買付者主導である場合で記載します。
 
応募株主が買付者より応募契約の締結の打診を受けた場合の留意点
※インサイダー情報の管理体制の構築等
買付者が応募株主へ対象会社の株式を売却する文脈において、応募契約が作成される(買付者主導)場合、通常は買付者が公開買付けの実施に関する意向の表明を応募株主に行う事により、応募契約に関する交渉が開始されます。
買付者における公開買付けの検討状況次第ではあるものの、買付者が応募株主に対して公開買付けの実施に関する意向表明を行った段階において既に買付者においては公開買付けについての準備が相当程度進んでいる事が一般的です。
また、当該事実は金融商品取引法(金商法)167条1項におけるインサイダー情報(公開買付け等を行う事についての決定をした事※金商法167条2項)に該当していると考えられる場合も多いと思料されます。
そのため買付者から公開買付けについて意思表明を受けた場合に応募株主は、これ以降公開買付けの実施に関する事実が公表されるまでの間、または公開買付けの実施・検討の中止について、買付者が正式に決定する事でインサイダー情報が消滅していると判断されるまでの間(※1)は、対象会社の株券等の買付けが出来なくなる事(金商法167条1項)に留意する必要があり、公開買付けに関する情報の管理体制を構築する事。
関与する者を限定し当該情報が不必要に広まりインサイダー取引を誘発する可能性を防ぐ事が必要となります。(金商法167の2条2項)
そのため買付者としては検討している取引についての具体的な内容を秘したうえで、応募かぶに対し面談の打診を行う事が望ましく、応募株主としても買付者からの面談の打診を受けた場合には、提案の内容に関して一切聞く事なく、インサイダー情報が伴いうるものであるのかどうかも予め角にする事が考えられます。
 
※1 なにをもってインサイダー情報が消滅していると判断されるかは必ずしも基準が明らかではないため、慎重な判断が必要となります。
 
上記インサイダー取引規制との関係に加え、万が一公開買付けに関する情報がリークされた場合には、対象会社の株価に大きな影響をもたらしますので、これにより買付者が公開買付けを断念せざる得ない事態も生じる可能性があるため、この点におかれても買付者より打診を受けた応募株主は情報の取り扱いは十二分に留意する必要があります。
 
応募契約の交渉を行うにあたっての留意点
〜応募契約の交渉の過程や応募契約の条件は一般に公表される〜
買付者および応募株主らとの間で応募契約の交渉を行うにあたり大きな留意点のひとつとして、買付者は公開買付届出書等の開示書類において、応募株主らとの間で応募契約を締結した事実に留まらず、応募契約の締結の交渉過程(交渉の開始時期やそれらの内容※価格交渉も含む)や応募契約の条件、その他の具体的な内容も開示しなければなりません。
 
即ち上場会社が東京証券取引所(東証)等の適時開示ルールに基づいて子会社の売却を公表する場合と比較しても非常に詳細な情報が公表される事となります。
公開買付届出書等に交渉の経緯や主要条件が記載される事で、以下の問題が生じうる事を留意する必要があります。
 
特に応募株主が上場会社である場合には自身の株主からより高い金額で、またはより良い契約条件で売却するべく交渉すべきではなかったのか?という指摘がなされうる。
・同じく自身の株主から、そもそも当該公開買付けに応募するのではなくより有利な方法での売却機会を確保するべきではなかったのか?という指摘がなされうる。
※有利な売却とは、買付価格よりも市場価格が高い場合における市場での売却 ※2 や対抗的公開買付けが実施された場合の当該買付者への売却に加え、対象会社自身による自己株式取得を目的とする公開買付けを行うよう対象会社に要求し、当該自社株公開買付けに応募する事 ※3 などが考えられます。
 
※2 市場価格が買付価格を上回っていた状況において公開買付けに応募した事、公開買付けへの応募を解除しなかった事が取締役の善管注意義務・忠実義務に違反するとして、株主代表訴訟が提起された事例として東京高裁平成18年10月25日判決(資料版商事法務274号245頁)があります。
ただし、判決では義務違反がないと認定。
 
※3 株式会社シティインデックスイレブンスが2020年1月21日に提出した公開買付届出書によれば、東芝機械株式会社を対象とする公開買付けに至った一つの経緯として、東芝機械株式会社が自身の保有する有価証券について、より有利な形で売却をしなかった事が記載されています。
すなわち、東芝機械株式会社は自身が保有する株式会社ニューフレアテクノロジーの株式を公開買付けにおける応募契約を締結する形で売却しようとしたところ、自己株式取得の公開買付けまたは特別配当の実施を伴うスキームに変更するべく交渉するよう、株式会社シティインデックスイレブンスの関係会社が東芝機械株式会社に対して求めた事が記載されています。
 
〜対抗的公開買付けが実施される可能性があり、結果的に不利な買付価格を提示する公開買付けに応募した事が一般に示される可能性について〜
公開買付けが開始された場合、対象会社の発行する株券等が公開買付届出書に記載された買付価格による取引の対象となっている事が公に示されるため、第三者が対抗的公開買付けを開始する場合 ※4 や対抗的公開買付けが開始されないとしても、対象会社からの賛同を得られる事を条件として対抗的公開買付けを実施する旨の意思が公表される場合があります。 ※5
 
このような場合において結果的に応募契約を締結した応募株主が、より有利な方法で売却できる可能性があったにもかかわらず、不利な買付価格を提示する公開買付けに応募する事となり、且つその事実が公に示される可能性が生じえます。
以上の通り、上記観点から応募契約の締結は株主からの応募株主に対する批判へと発展する潜在的な可能性がある事から、応募株主が買付者との間で応募契約についての交渉を行うに際しては、法律顧問からのアドバイスを踏まえつつ、慎重にこれを行う必要があると言えるでしょう。
 
※4 株式会社HOYAによる株式会社ニューフレアテクノロジーの株式に対する公開買付け(2019年12月13日公表)は、東芝デバイス&ストレージ株式会社が株式会社ニューフレアテクノロジーに対して実施していた公開買付け(2019年11月13日公表)に対抗する形で開始されました。
※5 株式会社ユニゾの2019年10月16日付のプレスリリースによれば、サッポロ合同会社による株式会社ユニゾの株式を対象とする公開買付けの期間中に、ブラックストーングループが、1株5000円で公開買付けを行う意思が示された事が明らかになっています。
 
〜他の株主と比べてより有利な条件での売却について応募契約で合意する事は困難である〜
応募株主からの公開買付けの応募は公開買付けの成否の直結するものであるため、買付者にとっては、応募株主との間で応募契約を締結する事は大きな意味のあるものです。
もっとも公開買付けにおいては買付価格の均一性が求められるため(金商法27条の2第3項、金融商品取引法施行令8条)、買付者は応募契約を締結する応募株主との間においてのみ、他の対象会社の株主と比較してより有利な条件で買付けを行う事は出来ません。
また、応募株主が公開買付けに応募する事を条件として公開買付け以外の場面において、買付者が応募株主に対して何らかの便宜を付与する事も、当該買付価格の均一性に反するものとみなされる可能性があります。
したがって、例えば公開買付けに応募する事を条件に、別途買付者が応募株主に対して、一定の手数料の支払いを行う事や、公開買付け以外の場面での取引において応募の見返りとして応募株主に対して優遇する事等は困難であると考えられます。
※ただし、応募契約において以下のような規定を設ける事は、通常は買付価格の均一性に反するものではないと考えられています。
 
応募契約において買付者に係る表明保証条項を設けた場合、応募株主はその違反を理由とする損害賠償請求権(表明保証違反による損害賠償請求権)を、買付者に対して有する可能性があり、その結果、応募契約を締結する応募株主が一般の株主よりも金銭を多く得る可能性があります。
もっとも、応募契約の表明保証条項はあくまで公開買付けの手続外での買付者及び応募株主の間の合意による補償義務であり買付価格の増額ではないため、買付価格の均一性の問題は生じないと解する事も可能であると考えられます。
 
応募契約において買付者の公開買付けの実施義務(一定の条件が整えば公開買付けの実施が義務付けられる条項)を設けた場合、応募株主はその違反を理由とする損害賠償請求権を買付者に対して有する可能性があります。
例えば、買付者がそもそも公開買付けを開始しない場合や、合意した価格よりも低い公開買付価格で公開買付けを開始した場合がこれに該当する可能性がありますが、これについてもあくまで公開買付けの手続外での買付者及び応募株主の間の合意による補償義務であり買付価格の増額ではないと解する事も可能であるため(そもそも買付者が公開買付けを開始しなかった場合には公開買付けにおける買付価格の均一性の問題ではないとの整理も可能です)、実務上は買付価格の均一性の問題とは考えられておりません。
 
・応募契約の内容に関する留意点
〜応募契約にて合意される事が比較的多い条項〜
個別の公開買付けごとに検討する必要があるものの、応募契約において合意される事が一般的に多い条項としては、以下のようなものがあげられます。
※買付者と応募株主の意向により、非常にシンプルな内容の契約となる事も実務上あります。
 
応募義務
一定の条件による公開買付けが実施された場合、一定の時期までに当該公開買付けに応募を行う事が義務付けられ、かつ当該応募の解除を禁止する旨の規定です。
金商法上は、応募株主は公開買付けに応募した後であっても公開買付期間中はいつでも当該応募を解除する事が可能であり、かつ、買付者は解除された事について応募株主に対して損害賠償又は違約金の支払を請求する事は出来ないとされていますが(金商法27条の12第1項及び第3項)、買付者と応募株主との間における応募契約について、応募を義務付け、また解除しない事を合意すること自体は可能であると解釈されており、一般的にそのような合意がなされています。
しかし、当該合意はあくまでも私人間での合意でしかないため、株主が当該合意に違反し、金商法27条の12第1項に基づいて応募を解除する可能性はありえます。
 
応募の前提条件
前提条件に関する事項としては、通常は以下の項目が盛り込まれる事が多いです。
1.公開買付けが適法に開始されており、かつ撤回されていないこと
2.応募契約に基づき公開買付けの開始までに買付者が履行し又は遵守すべき義務の履行及び遵守をしていること
3.買付者の表明及び保証に誤りがないこと
4.公開買付けの実施のために法令等に基づき必要な手続が完了していること
5.司法・行政機関等に対して、公開買付けを禁止又は制限することを求める旨の訴訟等又はその申立ても係属しておらず、かつ、公開買付けを禁止又は制限する旨の法令等又は司法・行政機関等による判決等も存在しないこと
6.対象会社の取締役会が公開買付けについて賛同する旨の意見表明の決議をしており、かかる決議を撤回又は変更していないこと(応募推奨まで求める場合もあります)
 
誓約事項
買付者が遵守するべき誓約事項のうち、典型的なものは以下のものが考えられます。
1.公開買付けにおいて法令上必要となる書面を作成する義務
2.応募契約に基づく取引に必要となる許認可の取得に向けて努力する義務
 
表明保証
買付者が行う典型的な表明保証としては、以下のものが考えられます。
1.適法な設立及び有効な存続
2.応募契約の締結及び履行に関する有効な権限及び権能の保有
3.応募契約の有効性、法的拘束力及び強制執行可能性
4.応募契約の締結及び履行について法令等との抵触の不存在
5.買収資金を十分保有していること。又はその確実な見込みがあること
6.反社会的勢力等との関係の不存在
※応募者が行う典型的な表明保証としては、以下のものが考えられます。
通常の株式譲渡契約と異なり、対象会社に関する事項についての表明保証については規定されない事も多いです。
1.適法な設立及び有効な存続
2.応募契約の締結及び履行に関する有効な権限及び権能の保有
3.応募契約の有効性、法的拘束力及び強制執行可能性
4.応募契約の締結及び履行について法令等との抵触の不存在
5.反社会的勢力等との関係の不存在
 
解除条項・終了に関する条項
典型的な解除又は終了事由としては以下のものが考えられます。
1.公開買付けが撤回された場合
2.一定期間までに公開買付けが実施されない場合
3.相手方当事者の契約違反・表明保証違反
4.相手方当事者の倒産手続等の開始
 
損害賠償
応募契約上の当事者の表明保証事項のいずれかが不実若しくは不正確である事が判明した場合、又は応募契約に定める義務に違反した場合に、それに起因して相手方当事者が被った損害及び費用を補償する義務を規定する例もあります。
 
その他
公開買付けの決済開始日以前を基準日とする対象会社の株主総会が開催される場合には、当該株主総会に関する株主としての権利行使の代理権を付与する旨の合意がされる事があります ※6
※6 議決権行使の代理権の付与をもって、買付者と応募株主が実質的特別関係者(金商法27条の2第7項2号)に該当するとは実務上考えられていません。
その他の条項としては、契約の交渉・締結に関する費用負担を定めた条項、秘密保持義務を定めた条項、契約上の地位の譲渡を禁止する条項、相手方当事者への通知方法を定めた条項、公表の方法について定めた条項、準拠法・管轄に関する条項、誠実協議義務を定めた条項等の一般条項が規定される事が多いです。
 
・応募契約にて合意する事が検討される事がある条項
応募契約において典型的に合意される条項ではないものの、実務上、以下のような条項が合意される場合もあります。
 
公開買付けの実施義務
買付者が、一定の期日までに一定の条件での公開買付けを実施する義務を負担する事があります。
公開買付けの実施義務を買付者が負担する場合には、当該義務の履行に関する前提条件が付される事もあります。
 
対抗的公開買付けが発生した場合の撤回(フィディシャリーアウト条項)
公開買付価格よりも高い買付価格による対抗的公開買付けが実施された場合、応募株主が買付者による公開買付けへの応募を撤回し、当該対抗的公開買付けへの応募を許容する条項が合意される事があります。
当該条項が合意された場合、応募株主は応募義務にかかわらず買付者による公開買付けへの応募を撤回し、対抗的公開買付けに対して応募する事が可能となります。
ただし、実際に当該条項に基づき対抗的公開買付けへの応募を行うためには、例えば、対抗的公開買付けの買付価格が買付者の買付価格に比べ一定金額以上高い事、買付者が対抗的公開買付けに対抗して一定期間以内に買付価格を上げなかった事、公開買付けへの応募をする事が善管注意義務違反を構成する可能性がある事を示す弁護士の意見書の提出が求められる等、様々な条件が課される事が一般的です。
なお、対抗的公開買付けがなされた場合には単に誠実協議を行うという規定にとどめる場合もあります。
 
ブレイクアップフィー
上記フィディシャリーアウト条項の発動により、対抗的公開買付けに応募する場合において、応募株主が買付者に対し損害賠償の合意として金銭を支払う事が規定される事があります(いわゆるブレイクアップフィー)
ブレイクアップフィーの定め方はいろいろな条件が考えられますが、取引価格(買付価格×応募株式数)の数パーセントという形で合意される場合があります。
 
取引保護条項(no talk / no go shop 条項)
応募株主が、買付者による公開買付けの応募と矛盾・抵触しうる行為に関する提案、勧誘、情報提供、協議、交渉を行う事を禁止する事を目的とする条項です。
また、第三者からこれらの行為に関する提案又は勧誘を、応募株主が受けた場合には応募株主による買付者に対する報告義務が規定される事もあります。
 
・応募契約の締結にあたっての留意点
〜応募契約の締結のタイミング・応募契約の締結のための機関決定のタイミング〜
応募契約の締結は、通常は公開買付けの公表の直前になされます。(より具体的には公表日に締結する事が一般的です。)
これは、買付者と応募株主の間で応募契約を締結する事によって、応募株主が金商法上の大量保有報告制度における変更報告書の提出義務を負担する事になるためです。(金商法27条の25、変更報告書にて応募契約の締結の事実を記載する必要があります。)
その結果、買付者による公開買付けの公表に先立って大量保有報告書の変更報告書にて公開買付けの事実が公表されかねない事態が生じえます。
そのため応募契約の締結は、公開買付けの公表に近いタイミング(公表日又は大量保有報告書の変更報告書の提出期限が、公開買付けの公表日以降となるようなタイミング)で締結がなされる事が一般的です。
また、応募株主が上場会社であり、応募株主にとって応募契約の締結が、適時開示事由となる場合も留意が必要です。
当該株主の応募契約の締結に関する取締役会決議のタイミングが、公開買付けの公表予定のタイミングよりも早く到来する場合には、買付者が公開買付けを公表する前に、応募株主が応募契約の締結の事実を適時開示ルールに則り公表しなければならないという事態が生じかねません。
そのため応募株主が応募契約に係る機関決定を行う場合には、適時開示ルールによる開示の要否を確認の上、買付者と公表のタイミングについてすり合わせをする事が望ましいと言えるでしょう。
 
〜応募契約の締結と開示〜
応募株主は、応募契約の締結により典型的には以下の書類の提出・公表が求められることがあります。
 
プレスリリース(上場会社の場合)
典型的には以下の事由を理由とする適時開示を検討する必要があります。
・子会社の異動(有価証券上場規程402条(1)号)
・当該上場会社の運営、業務若しくは財産又は当該上場株券等に関する重要な事項であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの(同402条(1)号)
・有価証券の処分による業績予想値の修正(同405条)
 
臨時報告書(有価証券報告書の提出会社の場合)
典型的には以下の事由を理由とする臨時報告書の提出を検討する必要があります。
・特定子会社の異動(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項3号)
・提出会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に著しい影響を与える事象が発生した場合(同12号)
・当該連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に著しい影響を与える事象が発生した場合(同19号)
 
大量保有報告書の変更報告書(対象会社の株式等に関して大量保有報告書を提出済みの場合)
・応募契約を締結した事実を、「当該株券等に関する担保契約等重要な契約」の欄に記載する必要があります。
 
・応募契約の締結と、有価証券通知書の提出義務・目論見書の交付義務
買付者と応募株主の間での応募契約の締結は応募株主による有価証券の売却を目的とするものであるため、発行者関係者等による有価証券の売出しに関する規制(より具体的には対象会社の議決権の10%以上を所有している主要株主による売出しを理由とする有価証券通知書の提出及び目論見書の交付義務)に服するかが実務上問題となります。(金商法4条6項、13条1項後段)
この点については、主要株主が公開買付けに応じて応募する行為は売出しに該当しない事が金融庁により明らかにされていますが(平成21年12月28日付の金融庁パブリックコメント62番)、応募株主が単なる応募にとどまらず第三者が公開買付けを行うよう、より積極的に働きかける行為(例えば上場子会社の売却のために買主選定プロセスを主導し、候補者に対して公開買付けによる取得を働きかける行為等)について有価証券通知書・目論見書が不要となるかは必ずしも明らかではありません。
応募株主が買主選定プロセスを主導した場合であっても、他の株主の応募も期待されているような場面においては、公開買付けの条件については買付者だけではなく対象会社も交渉に関与し決定される事が通常であり、応募株主の行為は売出しには該当せず、有価証券通知書・目論見書の提出は不要という整理が出来るのではないかと考えられますが、例えばばディスカウントTOB等、専ら応募株主のみの応募が期待されており、公開買付けの条件も応募株主と買付者のみの間の交渉で決定されるような例外的な場面もありうるため実際の案件ごとに法律顧問によるアドバイスを受けつつ検討を進める必要があります。
 
・応募株主による公開買付けの期間中・公開買付け終了後のアクション
〜公開買付期間中のアクション〜
買付者が公開買付けを開始した後、応募株主は、応募契約に基づいて公開買付けに実際に応募を行う事となります。
応募に際しては公開買付代理人である証券会社にて証券口座を開設する必要があります。
なお、応募を行うためには公開買付代理人の指示に従い、本人確認書などの書類等の提出等が必要となる点についても留意が必要です。
特に、応募契約においては、公開買付けの開始から何営業日以内に応募を行うといった義務が課される場合もありますので、応募手続が完了するタイミング等は、公開買付代理人と予め協議を行っておくことが望ましいと言えるでしょう。
 
〜大量保有報告書の変更報告書(短期大量譲渡)〜
公開買付けが成立した場合、応募株主は応募した株式について買付者に売却する事が確定となりますので、大量保有報告書の変更報告書を提出する必要があります。
ここで留意しなければならないのは、公開買付期間の最終日から何営業日後に決済がなされるかという点です。
一般の株式譲渡の場合において、株式譲渡契約の締結日と株式譲渡の実行日の間が6営業日以上空いている場合には「締結日」から5営業日以内に売買契約の締結の事実を記載した変更報告書に加えて「実行日」の5営業日以内に売買契約に基づく株式譲渡の実行の事実を記載した変更報告書を提出する事が求められています。(株券等の大量保有報告に関するQ&A 問16)
公開買付けにおいても、公開買付けが成立した場合には公開買付期間の最終日に売買契約が締結されたものと取り扱いますので、その結果、公開買付期間の最終日から決済の開始日までに6営業日以上空いている場合には、応募株主は公開買付期間の最終日から5営業日以内に、また、公開買付けの決済日から5営業日以内に変更報告書を提出する必要があります。
 
他方で、公開買付期間の最終日から決済の開始日まで5営業日以内の場合には、応募株主は公開買付期間の最終日から5営業日以内に変更報告書を1回提出すれば足ります。(その後、実際に決済がなされた場合でも改めて変更報告書を提出する必要はありません)
なお、上記に加えて応募契約に基づく公開買付けへの応募は、その所有する全ての株券等を応募する事が通常であるため、短期大量譲渡(27条の25第2項)に該当する可能性が高く、使用する変更報告書の様式が異なる場合がありますので留意する必要があります(具体的には、第二号様式を使用し「譲渡の相手方」及び「単価」を記載する必要があります。)
 
〜主要株主による売買報告書〜
応募株主は、対象会社の主要株主(総株主等の議決権の100分の10以上の議決権を保有している株主)に該当する場合が多いものと思われますが、公開買付けの決済が行われた日の翌月の15日までに売買報告書を作成の上、財務局長宛てに提出する必要があります。(金商法163条) ※7
 
※7 公開買付けにより売却した対象会社の株券等について取得した時期が6ヶ月以内である場合には、短期売買利益の返還の問題が生じえます。(金商法164条1項及び2項)