2019年5月に成立した道路運送車両法及び道路交通法の改正法が、2020年4月1日に施行され、法律上、自動運転レベル3の車両の公道走行が解禁されました。※1 

(道路運送車両法及び道路交通法の改正法の概要については前回のブログ記事をご覧ください)

 

これに先立つ同年3月31日に、改正法の施行に合わせて道路運送車両の保安基準等も改正され ※2 同年4月1日から施行されていますので、ここからはかかる保安基準の改正等について概説していこうと思います。

 

1. 自動運行装置の要件

道路運送車両法上、自動運転システムは「自動運行装置」と定義された上で ※3 保安基準の対象装置に追加されました(41条1項20 号)

対象装置の具体的な安全基準については「道路運送車両の保安基準」及びその細則を定める告示で規定されているところ、自動運行装置の安全性の基準については、自動運行装置の作動中、乗車人員及び他の交通の安全を妨げるおそれがないものである事に加えて、例えば、以下のような要件が列挙されています。

 

・ 走行環境条件 ※4 を満たしていない場合又は自動運行装置が正常に作動しないおそれがある場合に当該装置が作動しないこと。

・ 自動運行装置の作動中、走行環境条件を満たさなくなる場合、運転者に対し運転操作を促す警報を発し、運転者が当該警報に従って運転操作を行わないときは車両を安全に停止するものであること。警報は、原則、走行環境条件を満たさなくなる前に十分な時間的余裕をもって発するものであること。

・ 自動運行装置の作動中、運転者が警報に従って運転操作を行うことができる状態にあるかどうかを常時監視し、運転者が当該状態にない場合には、その旨を運転者に警報するものであること。

・ 自動運行装置が正常に作動しないおそれがある場合、その旨を運転者に視覚的に警報するものであること。

 

レベル3の自動運転では、システムの作動継続が困難な場合には、運転者がオーバーライドして運転操作を行う必要がある事から、それを警報によって運転者に知らせる事としたものです。

かかる警報があった場合に運転者が運転操作を行う事が出来る状態にあるかを監視するため、ドライバーモニタリング機能も必要とされています。

また、当初市販されるレベル3の自動運転車としては、高速道路の渋滞時における自動運転等が想定されている所、「高速道路等における低速自動運行装置を備える自動車の技術基準の概要」として、以下のような条件が掲げられています。

 

・ システムが作動する最高速度は60km/hであること。

・ 前方車両との車間距離は、急な割り込みなど一時的に遵守できない場合を除き、自車速度に応じた所定の距離以上であること。例:6.7m(20km/hの場合)、15.6m(40km/hの場合)

・ 運転者が警報に従って運転操作を行う事が出来る状態にあるかどうかを、運転者のまばたき、閉眼、顔・体の動き等により判断すること。

・ 走行車線内での走行を維持し、かつ、いかなる車線表示も越えることがないこと。

 

2. 作動状態記録装置の要件

自動運行装置には、認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する機能の作動状態の確認に必要な情報を記録する為の装置を備える事が求められていますが(脚注3参照)、当該装置が記録する項目として、以下のものが挙げられています。

 

①システムの作動状況が別の状況に変化した時刻(ON/OFFの切替え)

②システムによる引継ぎ要求が発せられた時刻

③システムがリスク最小化制御を開始した時刻

④システムの作動中に運転者がハンドル操作などによりオーバーライドを行った時刻

⑤運転者が対応可能でない状態となった時刻

⑥システムが故障のおそれのある状態となった時刻

 

※なお、当該記録装置に記録されたデータの保管期間は6か月間又は2500回分とされています。

 

3. サイバーセキュリティ

自動運転システムへの外部からの不正な侵入等は重大事故に繋がりかねない事から、サイバーセキュリティは重要なポイントの一つとなりますが、その技術基準の概要として、①車両のシステム間及び外部システムとの相互関係を考慮し、車両のリスクアセスメントリスクの特定・分析・評価)を行うと共に、リスクへの適切な対処・管理を行う事、②セキュリティ対策の有効性を検証する為の適切かつ十分な試験を実施する事が掲げられています。

また、サイバーセキュリティ業務管理システムの技術基準の概要として、③開発・生産・生産後の各段階を考慮したものであるこ事、及び④リスク評価の実施や当該評価を最新状態に保つ事などにより、セキュリティが十分に確保されるものである事(自動車製作者等が契約したサプライヤー等においても同様)が要求されます。

 

4. 外向け表示

周囲から自動運転車か否かが判別できるように、自動運転車であることを示す下図のステッカーを車体後部に貼り付ける事を、メーカーに要請する事としています。

 

【図】ステッカーの表示 (AUTOMATED DRIVE)

 

5. 無人移動サービス車の実用化等

地方や観光地等の各地域での無人移動サービスに係る公道実証実験が行われており、ハンドルやアクセル・ブレーキのペダルがない自動車等に関する基準緩和認定制度が設けられていますが、このルールを事業化の際など実証実験以外の場合にも適用できる事としています。

なお、無人移動サービスの実証実験や実用化の際に走行環境条件を設定するにあたっては、自動走行に係る官民協議会が2019年12月に公表した「地域移動サービスにおける自動運転導入に向けた走行環境条件の設定のパターン化参照モデル(2020年モデル)」※5 及びその解説 ※6 が参考になります。

また、無人移動サービスを実施するに際しては、国土交通省が2019年6月に公表した「限定地域での無人自動運転移動サービスにおいて旅客自動車運送事業者が安全性・利便性を確保するためのガイドライン」※7 も参照する必要があるでしょう。

 

6.おわりに

自動運転車の登場は、単にマイカーの運転が楽になるということにとどまらず、複数の交通手段を一つのサービスとして統合して利用者に提供するMaaS(Mobility as a Service)にやはりとっても重要な意味を持つものであり、さらに、ICT技術によって街全体を最適化するスマートシティの要素としても注目されています。

法律上、自動運転車の公道走行が認められる事となったのは大きな一歩といえますので、今後、地域の移動手段の確保・利便性の向上等のために、自動運転車を利用した各種サービスの登場が期待したいです。

 

※1 道路運送車両法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(令和 2 年政令第 20 号)により、施行期日が 2020 年 4 月 1 日とされました。これ により、改正道路運送車両法の施行日と同日から施行するとされていた改正道路交通法も、同日に施行されることになりました。(改正附則1条) 

※2 https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha07_hh_000338.html 

※3 ①プログラムにより自動的に自動車を運行させるために必要な、自動車の走行時の状態及び周囲の状況を検知するためのセンサー並びに当該センサーから送信された情報を処理するための電子計算機及びプログラムを主たる構成要素とする装置であって、②当該装置ごとに国土交通大臣が付する条件で使用される場合において、自動車を運行する者の操縦に係る認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する機能を有し、かつ、③当該機能の作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置を備えるもの、と定義されています(41条2項)

※4 装置ごとに国土交通大臣が付する条件であり、道路条件(高速道路、一般道等)・地理的条件(都市部、山間部等)・環境条件(天候、夜間制限等)・走行条件(速度制限等)等があります。

※5 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/jidousoukou/pdf/model.pdf

※6 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/jidousoukou/pdf/model_kaisetsu.pdf

※7 https://www.mlit.go.jp/common/001295527.pdf

 

 

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