2020年4月1日改正、道路運送車両法及び道路交通法の施行とそれに伴う道路運送車両の保安基準等の改正について。

(2019年5月に成立した道路運送車両法及び道路交通法の改正法が、2020年4月1日に施行され、法律上自動運転レベル3の車両の公道走行が解禁されましたが、これらの経緯について初めの概要から説明していく事とします)

 

政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)・官民データ活用推進戦略会議が2018年6月15日に公表した「官民 ITS 構想・ロードマップ 2018」では、今後10年~20年の間に自動運転システムが急速に普及していく事が想定され、交通事故の削減、交通渋滞の緩和、環境負荷の軽減など、道路交通社会の抱える課題の解決に大きく貢献すると共に、自動車・移動サービスに係るサービスを巡るこれまでの産業構造自体が大きく変化する可能性がある事が指摘されています。

 

自動運転システムは、現在一般的に用いられているSAE ※1 の分類では、下図のとおりレベル0からレベル5まで段階的に定義されており、政府は、①自家用車について、2020年を目処に高速道路でのレベル3の自動運転、2025年を目処に高速道路でのレベル4の自動運転、②物流サービスについて、2021年までに高速道路でのトラックの隊列走行、2025 年以降に高速道路でのレベル4の自動運転、③移動サービスについて、2020年までにレベル4の限定地域(過疎地等)での無人自動運転移動サービス等の実現を目標としています。

上記レベルの自動運転の実現に向け、自動運転車の走行や自動運転サービスに関する実証実験が各地で行われており、公道走行の為のルール整備に関しても議論が進んでいます。

IT 総合戦略本部・官民データ活用推進戦略会議が2018年4月17日に公表している「自動運転に係る制度整備大綱」における方針を踏まえ、かかる目標の実現のためのルール整備の一環として、道路運送車両法及び道路交通法の改正が予定されています。

各改正法案は 2019年3月8日に閣議決定されており、第198回通常国会に提出され、道路運送車両法の改正法案が同年5月17日に可決されました。

この改正によって、同法ではレベル4までの自動運転の公道走行に対応する事が可能となります。

また、道路交通法の改正法案は、同年5月28日に参議院で可決され成立されました。

 

さて、そもそもレベル3だかレベルとはなんでしょうか。

[「官民 ITS 構想・ロードマップ 2018」のデータを基に説明していきます。

 

【自動運転レベルの定義】※2

[「官民ITS 構想・ロードマップ 2018」5頁]

 

1. 道路運送車両法の改正法案について ※3

(1)「自動走行装置」の定義

現行法第41条第1項では、自動車の装置に関して、国土交通省令で定める保安上又は公害防止その他の環境保全上の技術基準(保安基準)に適合するものでなければ、運行の用に供してはならないとされ、かかる保安基準の対象となる装置を列挙していますが、改正法案において、同項の装置に「自動運行装置」が加えられています。

 そして、この「自動運行装置」は、プログラムにより自動的に自動車を運行させるために必要な、自動車の走行時の状態及び周囲の状況を検知するためのセンサー並びに当該センサーから送信された情報を処理するための電子計算機及びプログラムを主たる構成要素とする装置であって、当該装置ごとに国土交通大臣が付する条件で使用される場合において、自動車を運行する者の操縦に係る認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する機能を有し、かつ、当該機能の作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置を備えるもの、と定義されています。(同第41条第2項)

要するに、自動運転システムは、①一定の条件下で、②下図のように、カメラやレーダー等のセンサーと人工知能等を実装したシステムによって、認知・予測・判断・操作といった一連の運転動作全部を行う機能(上図青枠部分)を有するものであって、③その作動状態の記録装置を備えたものという事になります。

自動運行装置を使用できる条件(走行環境条件)※4 は、装置ごとに国土交通大臣が付す事とされていますので、その条件次第によって、レベル3にもレベル4にも対応する事が出来るようになっています。※5

作動状態の記録装置は自動運転そのものに必須ではありませんが、事故時の状況等(運転者の操作ミスかシステム不具合か等)を事後的に確認できるようにするために設けられたものであり、上記の定義の特徴的な部分といえます。

 

【自動運転システムの概要】

[「官民ITS構想・ロードマップ 2018」14頁]

 

なお、自動運行装置の保安基準については2019年1月に国土交通省から公表された報告書 ※6 において、具体的な基準は新技術の 開発動向や国際基準策定の議論、交通環境等を踏まえ、機動性・柔軟性をもって対応するべきとされています。

 

また、保安基準が策定されるまでの間は、「自動運転車の安全技術ガイドライン」を前提とした技術開発を促進し、技術的知見が集約された段階でガイドラインの更新を進めていく事とされています。 

 

(2)分解整備の範囲の拡大及び点検整備に必要な技術情報の提供の義務付け

自動車技術の電子化、高度化に伴い現行の「分解整備」の対象となる装置を取り外して行う整備・改造以外でも、当該装置の作動に影響を及ぼし、保安基準適合性に大きな影響を与えるものが増加している事から、分解整備の対象となる装置に自動走行装置を加えると共に(装置を取り外して行うものに限らず)装置の作動に影響を及ぼすおそれのある整備・改造にまで対象を拡大して、「特定整備」と名称を改めています(同第49条第2項)

また、高度化した自動車の先進技術については、自動車メーカー等が作成する整備要領書等の技術情報が提供されなければ点検整備の実施が困難である事から、自動車を製造するメーカー等の努力義務とされていた自動車の使用者に対する技術上の情報の提供について、当該自動車の形式に固有のものについては、特定整備を行う事業者や使用者に提供することが義務付けられる事になります(同第57条の2第1項)

 

(3)プログラムの改変による改造等に係る許可制度の創設

改正法案で新設された自動運行装置に組み込まれたプログラムは、通常のコンピュータのプログラムと同様に物理的に機器を交換しなくてもインターネットを通じてソフトウェアのアップデートをする事が出来ますが、改変されるプログラム等が適切なものでなければ自動車が保安基準に適合しなくなるおそれのあるものとして国土交通省令で定めるものを実施しようとする者は、国土交通大臣の許可を受けなければならないとされています(同第99条の3第1項)

ソフトウェアのアップデートにより保安基準を満たさなくなる可能性もある事から、事前にチェックする仕組みを導入するものでしょう。

 

(4)検査に必要な技術情報の管理

自動車が保安基準に適合するかどうかの審査(基準適合性審査)については、独立行政法人自動車技術総合機構が行う事とされていますが(同第74 条の2第1項)、上記のソフトウェアのアップデートによる基準適合性審査も同機構が行う事とされ(同第99条の3第8項)、このような自動車の電子的な検査の導入に伴って、基準適合性審査に必要な技術上の情報であって国土交通省令で定めるものの管理に関する事務についても同機構が行う事とされています。(同第74条の3第1項、第102条第2項)

 

2. 道路交通法の改正法案 ※7

(1)「自動運行装置」の定義 

「自動運行装置」の定義に関して、上述した道路運送車両法改正法案で追加された「自動運行装置」の定義を引用する形で定めています(改正法案第2条第13号の2)

そのため、両法案の「自動運行装置」の定義は同内容のものとなります。

 

(2)作動状態記録装置の設置義務

改正法案では、事故時の状況等(運転者の操作ミスかシステム不具合か等)を事後的に確認出来るように、自動車の使用者、その他自動車の装置の整備について責任を有する者又は運転者は、「自動走行装置」を備える自動車について道路運送車両法改正法案第41条第2項に定める「作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置」(作動状態記録装置)によって作動状態の確認に必要な情報を記録することができないものを運転させ、又は運転してはならないとされており、運転に際して作動状態記録装置の設置が義務付けられる事になります(改正法案第63条の2の2第1項)

自動車の使用者には、かかる作動状態記録装置により記録された記録を、内閣府令で定めるところにより保存する義務も課せられています。

また、かかる作動状態記録装置により記録された記録について、警察官は、整備不良車両に該当すると認められる車両が運転されているときは、運転者に対してその提示を求め、当該装置について検査する事ができ、また、車両を製作した者等に対して当該記録を人の視覚又は聴覚により認識する事が出来る状態にする為に必要な措置を求める事が出来るとされています(同第63条第1項)

 

(3)使用条件の遵守

上述のとおり、道路運送車両法改正法案では、自動運行装置を使用できる条件は、装置ごとに国土交通大臣が付す事とされていますが、道路交通法改正法案においてもかかる条件を引用する形で規定され、当該使用条件を満たさない場合においては当該自動運行装置を使用して当該自動車を運転してはならない事を、運転者に義務付けています。(改正法案第71条の4の2第1項)

 

(4)スマートフォンの使用等

現行法第71条の5の5 において、自動車の走行中にハンズフリー機能を使用しない携帯電話等による通話及び車載ディスプレイに表示された画像の注視を禁じる旨が規定されていますが、改正法案では、自動運行装置を使用して自動車を運転する場合において、以下のいずれにも該当する場合には、かかる規定を適用しない事とされています。(同第71条の4の2第2項)

 

①当該自動車が整備不良車両に該当しないこと(上記2.(2)参照)

②当該自動運行装置に係る使用条件を満たしていること(上記2.(3)参照)

③当該運転者が、①、②のいずれかに該当しなくなった場合において、直ちに、その事を認知すると共に、当該自動運行装置以外の当該自動車の装置を確実に操作することができる状態にあること

 

かかる規定により、直ちに自動運転から手動運転に切り替えて運転者が確実に操作する事が可能な状態であれば、現行法第71条の5 の5の禁止規定が適用されないことになりますので、自動運転装置による走行中に、スマートフォンを使用したり、車載ディスプレイによりTVを視聴する事が可能となります。

もっとも、酒気帯び運転は法律上明示的に禁止されているものの(現行法第65条第1項)、それ以外の行為(例えば、食事、読書等)について、自動運転システムによる走行中にどのような行為を行ってよいかは、必ずしも明確ではありません。※8

この点に関しては、自動運行装置を使用して自動車を運転する者が許容される運転操作以外の行為の判断基準について、可能な限り明確化した上で周知徹底を図ること等について、参議院内閣委員会による附帯決議がなされています。※9  (衆議院内閣委員会においても同様の附帯決議がなされました。)

 

3. 自動運転車における事故の際の損害賠償責任に関する議論

自動運転車における事故の際の損害賠償責任については、国土交通省・自動運転における損害賠償責任に関する研究会において議論がなされ、2018年3月20日に同研究会の報告書が公表されました ※10

かかる報告書では、レベル1からレベル4まで、特にレベル3及びレベル4の自動運転システム利用中の事故を中心に、自動車損害賠償保障法(自賠法)に基づく損害賠償責任の在り方について検討されており、その概要は、以下のとおりです。

 

①自動運転システムを利用して自動車を運行する場合にも、自動車所有者、自動車運送事業者等に運行支配及び運行利益を認める事が出来る事から、迅速な被害救済のために、レベル0~レベル4までの自動車が混在する当面の過渡期においては、従来の運行供用者責任 ※11 を維持しつつ、保険会社等による自動車メーカー等に対する求償権行使の実行性確保の為の仕組みを検討する事が適当。

②ハッキングにより引き起こされた事故の損害については、原則として盗難車と同様に政府補償事業で対応する事が適当。

※但し、自動車の保有者等が必要なセキュリティ対策を講じておらず、保守点検義務違反が認められる場合等は除く。

③自賠法は「他人」への損害のみを対象としており、自動運転システム利用中の自損事故の場合には、運行供用者又は運転者は損害のてん補を受ける事は出来ず、現在と同様に任意保険(人身傷害保険) ※12 等により対応する事が適当。

④運行供用者責任を負わない場合として自賠法第3条但書が掲げる「注意」に関しては、自動運転システムのソフトウェアやデータ等をアップデートする事や、自動運転システムの要求に応じて修理する事等の注意義務を負う事が考えられる。

⑤外部データの誤謬や通信遮断等の事態が発生した際も安全に運行出来るべきであり、そのような安全を確保できないシステムは、同条但書の「構造上の欠陥又は機能の障害」があるとされる可能性がある。

 

基本的には、自賠法第3条に定められる現在の運行供用者責任を維持する方針であり、かかる方針は「自動運転に係る制度整備大綱」にも反映されています。

 

4. 自動運転等に関する議論

上記の道路運送車両法及び道路交通法の改正に関しては、省令や府令等に委ねられている部分も多い事から、その具体的な内容については省令・府令やガイドライン等についての今後の議論もフォローしていく必要があると言えます。

例えば、作動状態の記録義務については内閣府令で定められる事になりますが、どのような項目のデータを、どれくらいの期間で、どのような方法により記録するかは、自動運転システムの設計にあたって実務的には大きな問題となると考えられますので、個人情報の取扱い等を含め慎重な検討が必要となると思われます。

また、自動運転を含むモビリティに関するビジネスを取り巻く環境は、いわゆる「CASE」(コネクテッド、自動運転、シェアリング、 電機自動車)に関する技術が発展すると共に、複数の移動手段を組み合わせて一元化して提供する「MaaS」(Mobility as a Service)への取組みも活発になってきており、そのビジネスモデルが大きく変革していく事も想定されますので、幅広い観点から動向を注視していく必要があるでしょう。

 

 

※1 SAE(Society of Automotive Engineers)は、自動車関連技術者等を中心とするエンジニアリングに関する国際的な標準化機構です。

※2 SAE International J3016 (2016) “Taxonomy and Definitions for Terms Related to Driving Automation Systems for On-Road Motor Vehicle”の日 本語参考訳である JASO テクニカルペーパ「自動車用運転自動化システムのレベル分類及び定義」(2018年2月1日発行)参照

※3 改正法案は、国土交通省 HP(https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha01_hh_000066.html)参照

※4 2018年9月に国土交通省から公表された「自動運転車の安全技術ガイドライン」では、運行設計領域(ODD(Operational Design Domain):自動運転システムが正常に作動する前提となる設計上の走行環境に係る特有の条件)に含まれる走行環境条件として、以下のものが挙げられています。 

・ 道路条件(高速道路、一般道、車線数、車線の有無、自動運転車の専用道路等)

・ 地理条件(都市部、山間部、ジオフェンスの設定等)

・ 環境条件(天候、夜間制限等)

・ その他の条件(速度制限、信号情報のインフラ協調の要否、特定された経路のみに限定すること、保安要員の乗車要否等)

※5 レベル 3 では、限定領域において、基本的にはシステムが運行を担いますが、システムからの介入要求があった場合には、運転者が運転を代わ ることが必要になります。これに対して、レベル 4 では、限定領域においてはシステムが全ての運行を担うことになり、運転者が介入することは想定 されません。 

※6 正式名称は「交通政策審議会陸上交通分科会自動車部会 自動運転等先進技術に係る制度整備小委員会報告書 ~自動運転等先進技術に対 応した自動車の安全確保に係る制度のあり方~」

※7 改正法案は警察庁のウェブサイト「第 198 回国会(常会)提出法案」(https://www.npa.go.jp/laws/kokkai/index.html)参照

※8 なお、自動運転車の安全技術ガイドラインにおいて、レベル3の自動運転車については、例えば運転者が居眠りをしていないか等、運転者がシス テムから運転操作を引き継ぐ事ができる状態にあることを監視し、必要に応じ警報を発する事ができるドライバーモニタリング等の機能を有する HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)を備えることが必要とされており、睡眠は認められない事が前提となっています。 

※9 参議院ウェブサイト(http://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/current/f063_041101.pdf)参照 

※10 国土交通省ウェブサイト(http://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk2_000065.html)参照

※11 自賠法第3条:自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りではない。

※12 既に、保険会社各社から、自動運転の実証実験用の保険や、自動運転に対応した自動車保険(任意保険)が販売されています。

 

次回に続きます。