合併対価の柔軟化とM&A | 士業・法務担当者のためのマニアックな登記・会社法・債権法改正情報~司法書士・行政書士大越一毅~

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司法書士・行政書士の大越です。




「士業・法務担当者のための会社法入門」



第31回である今回は、



「合併対価の柔軟化とM&A」です。



合併対価の柔軟化の制度は、

会社法の施行によって認められた新制度です。


しかも、スタートが平成19年の5月と、

他の会社法の規定よりも1年遅いスタートでした

(といっても、もう大分前ですが。)。



この制度が出来た当初は、

海外資本が参入しやすくなったなどを理由に

新聞でも多数報道されましたので、

ご存じの方も多いのではないでしょうか?


 

要は、合併の対価に、存続会社の株式以外も

もアリだよ!って制度です。


たとえば、存続会社の金銭や社債、

さらには、存続会社の親会社の株式でもOK

です。


 

とはいえ、私の経験が浅いだけかもしれませんが、

そんなに頻繁に活用されているという印象

はあまりないです。


 もちろん合併以外の組織再編手続(株式交換等)

 でも利用可能なのですが。



 個人的には、存続会社の株式以外の財産を対価に

 するので、適格合併が使えるケースが

 あまりないというのが要因ではとも思います。



 但し、活用場面は、何も海外資本が入るケースだけでは

 ありません。


 国内会社同士が合併する場合に、

 存続会社があるグループの100%子会社だった

 場合(消滅会社はグループとは関係ない会社)で、

 合併後も存続会社とグループ親会社の100%親子関係

 を維持したい場合には、三角合併による対価の柔軟化

 を利用したりするケースもあります!




 会社の希望するスキームによっては、

 活用できる場面も少なからずあるでしょうから、

 お気軽に、専門家である司法書士までご相談ください!






1.合併対価の柔軟化とは?

 会社法では、平成19年5月から(会社法自体の施行時期は

平成18年5月であることに注意)、会社が吸収合併をする場合に限り、

消滅会社の株主に対して、存続会社の株式だけでなく、

金銭その他の財産を交付することが認められました

(会社法79条1項2号、751条1項3号)。


これを合併対価の柔軟化といいます。

この点、旧商法時代では、合併交付金の問題は別としても、

合併に際しては合併新株(又は代用として自己株式)しか

消滅会社の株主に対して交付することができませんでした。

合併対価の柔軟化が認められたことにより、

いわゆる交付金合併・三角合併が可能になりました。


これは実務界にとって非常大きな改正と言えます。

  交付金合併とは、対価として金銭のみを交付する合併のことです。


  交付金合併が可能になったことにより、例えば、買収会社が、

  被買収会社の支配株式取得後に、当該会社を完全子会社化

  しようとする場合、  従来とられてきた株式移転・清算の方式

  や端株割り当て等の方式に代わり、

  この交付金の手法を採用することが可能となりました。

  一方で、三角合併とは、存続会社の親会社株式

  合併の対価とする吸収合併のことです。


  三角合併が可能になったことで、外国企業が、

  日本企業を買収する手法として三角合併を利用することが考えられます。


  例えば、外国企業Aが、日本に100%子会社Bを設立し、

  次にBが親会社であるAの株式を対価として、

  Bと買収対象である日本企業Cとの間で吸収合併する場合、

  Aは、その株式を対価として、Cを100%子会社化することが可能になりました。


  もちろん、外国企業による買収だけでなく、

  日本の持株会社が、子会社による合併買収を行おうとする際

  にも利用ができると思います。
 
  

  そもそも、このような改正がなされた背景として、

  事業再構築・買収等の隆盛に伴う組織再編行為の手法の多様化

  の要請から、産業活力再生特別措置法(平成15年改正)は、

  認定計画に従う株式会社の合併につき、

  吸収合併消滅会社株主に対し「外国会社株式を含む特定金銭等」

  を交付することができる旨の既定を設け、

  会社法にもそのような規定を設けることにより、

  当該手続を一般化することに至りました。



2.合併契約書における記載方法

  上記の通り、交付金合併・三角合併を行う場合、

  合併対価と割り当てに関する事項につき、

  合併契約書にその旨を記載することになります。


  具体的には以下のように記載します。

<交付金合併の例>

第●条 甲(存続会社。以下同じ。)は、合併に際して、

総額金●●円を交付することとし、

効力発生日前日最終の乙(消滅会社。以下同じ。)

の株主名簿に記載された乙の株主(甲及び乙を除く)に対して、

乙株式1株に対して金●●円の割合で割り当てる。


<三角合併の例>

第●条 甲は、合併に際して、甲の完全親会社である

●●株式会社の普通株式●●株を交付することとし、

効力発生日前日最終の乙の株主名簿に記載された

乙の株主(甲及び乙を除く)に対して、乙株式1株に対して

●●株式会社の普通株式●●株の割合で割り当てる。



3.まとめ

上記の通り、合併対価の柔軟化は、組織再編の手法の1つとして、

その幅を広げるものであり、今後、多くの活用が期待されています。

しかし、交付金合併の場合は、税務上適格合併とならないこと

またスクイーズアウトによって少数株主の持株を大株主に

全て移転させてしまうことになるため、その態様・目的によっては、

対価に合理性があっても、合併無効又は総会決議取り消しの原因となる

可能性が否定できないことに注意が必要です。


他方で、三角合併の場合は、交付する親会社の株式は

外国株式や非上場会社の株式であることが多いため、

流通性や金額の算定方法に困難が伴うことから、


株主が通常の合併に比べ難色を示し易く、

株主総会決議の承認が得られ辛いことが予想されます。


さらには課税繰延となる要件も厳しいようです。
そのため、実際に活用された事例としては

双方ともまだまだ少ないと思われます。

とはいえ、特に税務面については経済界の動向により

頻繁に改正されることも多く、今後はこの点が改正され、

より使い勝手が良さそうなものになるかもしれません。


税制改正については、顧問税理士等から

最新の情報を入手しておくことをお勧めします。

また、実際に三角合併等を行う場合には、

所要の法的手続が必要ですので、スケジュール作成の段階から、

司法書士等専門家にご相談されることをお勧めします。

次回は、「会社分割手続のキホン」を予定しています。