士業・法務担当者のための登記パートナー
司法書士・行政書士の大越です。
「士業・法務担当者のための会社法入門」
第30回である今回は、前回の告知通り、
「簡易合併・略式合併の方法」です。
簡易合併と略式合併、
いずれも、一定の要件を満たす場合に、
合併につき、株主総会での承認決議を不要とするものです。
中小企業であれば、株主が少ないので、
株主総会の開催は容易な場合が多いですが、
上場企業など、株主が多い場合にはそうはいきません。
そのため、上場企業などが合併当事者となる場合には、
特に簡易合併が利用可能かどうか?
というのがスキームの肝だったりします。
私の経験上も、簡易合併が利用できないという
ことで、スケジュールが大幅に延期になった
(臨時株主総会は開催できないので、定時株主総会
まで延期する)ことも多々あります。
この簡易合併、100%親子会社間の合併
などでは、確かによく利用されますが、
安易に考えると危険です。
子会社側が債務超過のため合併差損
が生じる場合など、一定の場合には
利用できないケースもあります。
そのため、会計士又は税理士の先生
に資産等を評価してもらう必要もあり、
状況に応じてタッグを組んで
スキームを進める必要があるでしょう。
また、上記算定が手間なので、
あえて簡易合併が利用できそうな
ケースであっても
株主総会の開催が容易な場合には、
株主総会の承認決議を得て、
簡易合併を利用しないことも
考えられます。
自社の企業規模に応じた
適切な対処が必要ですから、
合併等のスキームを検討する
際には、専門家である司法書士
に是非予め相談ください!(^^)!
1.株主総会決議が不要に
吸収合併をする場合、原則として、効力発生日の前日までに
存続会社及び消滅会社それぞれで株主総会の特別決議での
承認が必要です。
しかし、後述する簡易合併又は略式合併の要件を満たす
当事会社(会社毎に要件を判断する必要がありますので、ご注意ください。)
では、株主総会の特別決議が不要となり、
取締役会の承認を得れば足りることになります。
上場会社など株主が多数の会社にあっては、
株主総会の開催も容易ではないため、
小規模企業又は子会社を吸収合併する際などにも
常に株主総会の開催が必要だとしたら、
機動的な組織再編は困難であり、
又株主総会をわざわざ開催する実益も乏しいでしょう。
そのため、例外措置として簡易合併・略式合併の制度を設け、
一定の場合に株主総会を不要とすることを会社法は認めています。
もちろん、吸収合併の場合に限らず、
会社分割等のその他の組織再編の場合にも、
簡易・略式の組織再編行為が認められています。
但し、新設合併や当事会社が持分会社である場合には
認められていない制度ですので、ご注意ください。
2.簡易合併とは
簡易合併とは、存続会社が合併で資産・負債を受け入れる際に、
合併新株等の対価を消滅会社の株主に交付する場合、
この対価の額が存続会社の純資産額の20%以下(無対価を含みます。)
であるときは、存続会社において株主総会の承認決議が不要
になることです(会社法796条3項)。
資産受け入れの対価に着眼点を置いた制度なので、
もちろん消滅会社では認められていない制度です。
なお、上記要件を満たす場合であっても、
以下の場合には簡易合併が認められませんのでご注意ください
(会社法796条3項但書)。
<簡易合併が認められないケース>
①合併差損が生じる場合(会社法795条2項)
いわゆる消滅会社が債務超過会社である場合などです。
②存続会社が非公開会社で合併対価に
譲渡制限株式が加わる場合(会社法796条1項但書)
募集株式の発行をする際、非公開会社の場合には
株主総会の特別決議が必要なので、この脱法とならないようにするためです。
そうすると、非公開会社であることがほぼ常である
中小企業同士の合併では、簡易合併がほとんどのケースで認められないでしょう。
しかし、実務上は、完全子会社を吸収合併する無対価合併であったり、
中小企業では株主数が多くないため株主総会の開催が容易であることも多く、
それほど問題にはならないと思います。
3.略式合併とは
略式合併とは、一方当事会社が、もう一方当事会社の
総株主の議決権の90%以上を支配(直接保有に限りません。)している場合、
子会社において株主総会の承認決議が不要になることです
(会社法784条1項、796条1項)。
株主総会を仮に必要としても、当然に承認を得ることができるからです。
なお、親会社が存続会社の場合には、多くの場合は、
親会社は簡易合併・子会社は略式合併の要件を満たすことになり、
双方で株主総会決議が不要となることも多いです。
また、子会社が存続会社となる場合もあるので、
略式合併は存続会社・消滅会社双方に認められている制度です。
他方で、上記要件を満たす場合であっても、以下の場合には
略式合併が認められませんので、ご注意ください。
<吸収合併消滅会社で略式合併が認められないケース>
①消滅会社が、公開会社かつ種類株式発行会社でないときに、
合併対価に譲渡制限株式(又はこれに準じる内容の対価)が
含まれている場合(会社法784条1項但書)
特別決議どころか、特殊決議が必要な重要な局面だからです。
子会社の少数株主の所有株式が自己の関与なしに、
流通性の低い譲渡制限株式に変更されてしまうため、
その利益を保護する必要があるからです。
<吸収合併存続会社で略式合併が認められないケース>
②存続会社が、非公開会社かつ合併対価が譲渡制限株式の場合
(会社法796条1項但書)
簡易合併同様、募集株式発行の脱法とならないようにするためです。
4.手続上注意すべきこと
吸収合併に際し、存続会社の役員又は商号等を変更する
ことが多々あります。
この場合、合併自体は簡易合併又は略式合併が認められたとしても、
当該役員変更等については、別途株主総会決議が必要
ですので、ご注意ください。
5.まとめ
略式合併や無体価合併の場合はともかくとしても、
簡易合併の場合には純資産額の算定等の問題がありますので、
合併に際し、我々司法書士等法律の専門家だけでなく、
顧問税理士又は会計士に財務面・税務面の相談をすることをお勧めします。