合併手続のキホン | 士業・法務担当者のためのマニアックな登記・会社法・債権法改正情報~司法書士・行政書士大越一毅~

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帝国ホテル傍で開業している32歳・キャリア10年目
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司法書士・行政書士の大越です。



「士業・法務担当者のための会社法入門」



第28回である今回は、前回の告知通り、


「合併手続のキホン」です。

合併手続、会社法の組織再編手続の中では、
一番基本になります。

なので、資格試験などで会社法を勉強するとき
は、この分野では、まず合併を理解してから、
他の会社分割とかの手続を理解すると
理解しやすいです。
したがって、私の連載も、ここからは
いよいよ佳境で、会社法では一番複雑な
分野である組織再編分野に突入します!

その初回は、この合併です。
まずはキホンをおさえましょう。

ですが、この合併、、
組織再編の分野の中で、
実務で一番行われる手続か?
というと、これは微妙です。

過去はM&Aなどでもかなり
幅広く利用されていましたが、
手続に時間がかかる、対象会社の
全ての権利義務を承継しなければいけない。。
など、デメリットも多いので、
今ではいきなりM&Aで合併を選択する
ケースは稀でしょう(^_^;)

M&Aでは株式譲渡・事業譲渡など、
原則として手続そのものに登記が不要な
手法が相当数利用されているようです。


現在、合併が一番使われるケースとしては、
グループ会社の整理のための
グループ間合併(親子合併・兄弟合併)でしょう。
そして、そのほとんどは、吸収合併です!



1.合併とは


合併とは、ある会社の資産・負債を問わず権利義務の全て
を包括的に他の会社へ承継させる手続のことです。

権利義務を承継する会社が既存の会社の場合は「吸収合併」、
同会社を新設する場合は「新設合併」の手続による
ことになります。

他の会社へ権利を承継させる会社のことを
「消滅会社」(これに対し、権利を承継する会社は、
吸収合併の場合「存続会社」、新設合併の場合は
「新設会社」といいます。)といいますが、

その名の通り、消滅会社は合併と同時に消滅します。
通常、会社を消滅させるためには、
解散・清算手続(解散・清算手続の詳細は
また別の回で解説します。)を行う必要がありますが、
合併の場合には合併手続により当然に消滅しますので、
別途これらの手続を行う必要はありません。

また、消滅会社は1社に限りません。
消滅会社が多くなればそれだけ手続に手間を要しますが、
10社以上での合併も法的には可能です。

他方で、合併の対価として消滅会社の株主に交付する
財産が柔軟化されたため、
三角合併等いろんなパターンの合併を
状況に応じて使い分けることが可能になりました。

合併は、組織再編行為の中で、最も周知されている手続です。
誰しもニュース等で合併という用語自体は
耳にしたことがあろうかと思います。

今回は、その合併の基本的な手続を解説します。
株式会社以外でも合併は可能ですが、
基本パターンである株式会社同士の合併を前提とします。
ちなみに、特例有限会社は、存続会社となること
(設立もできませんので、もちろん新設会社にもなれません。)
はできませんので、ご注意ください(整備法37条)。


一般的に、合併はグループ会社間の整理
又はM&Aに利用されることが多いです。
とはいえ、M&Aをするからといって
常に合併を利用するとも限りません。
むしろ、近年は、持株会社の利用も恒常化されてきました
ので、資産だけでなく負債も当然に承継してしまう合併よりも、
株式譲渡で支配権を確保する手法の方が手続も簡便ですし、
広く利用されているかもしれません。
合併もあくまで手続の1つにすぎず、
状況に応じた組織再編行為や株式譲渡を選択すること
が必要ですのでご注意ください。



2.吸収合併手続


まずは、吸収合併の一般的スケジュールは

以下の通りです(会社法749条等)。


<吸収合併スケジュール>

①吸収合併契約の締結


②事前開示書面の備置


③株主総会の承認


④株主・登録株式質権者・新株予約権者

  への通知又は公告

⑤債権者に対する官報公告

(合併の内容・一定の期間内異議を述べられる旨

・最終の貸借対照表の開示場所)


⑥会社が把握している債権者に対する

個別催告通知(公告と通知内容は同一)


⑦異議を述べた債権者又は反対株主等

  に対する対応(弁済、株式買取等)


⑧合併の効力発生


⑨存続会社の変更登記及び消滅会社の解散登記申請


⑩事後開示書面の備置


 

減資と同様、官報公告等の債権者保護手続が必要です。
 債権者保護手続が完了していないと

 合併の効力が生じないのは、減資と同様です

 (会社法入門第27回をご参照ください。)。


3.新設合併手続
 

 次に、新設合併手続の一般的スケジュールは

 以下の通りです(会社法753条等)。


<新設合併スケジュール>

①新設合併契約の締結


②事前開示書面の備置


③株主総会の承認


④株主・登録株式質権者・新株予約権者

  への通知又は公告


⑤債権者に対する官報公告
 (合併の内容・一定の期間内異議を述べられる旨

 ・最終の貸借対照表の開示場所)


⑥会社が把握している債権者に対する個別催告通知

 (公告と通知内容は同一)


⑦異議を述べた債権者又は反対株主等

 に対する対応(弁済、株式買取等)


⑧新設会社の設立登記及び消滅会社の解散登記申請


⑨事後開示書面の備置


 スケジュールにすると、ほぼ吸収合併と同じ手続ですが、

 新設会社は合併に際して会社を設立するため、

 新設会社では債権者保護手続や株主への通知等

 が不要です。

 

 また、新会社の設立なので、 設立登記の申請の日

 合併の効力が生じます(会社法754条)。

 他方で、設立の登記には設立会社の定款を添付しますが、

 通常の設立と違い、定款に公証人の認証は不要です

 (会社法814条)。


4.合併契約書と印紙税

 

合併契約書には、印紙税として収入印紙4万円

貼付する必要があります。これは契約書毎に必要です。
 


通常、契約書は当事者の分だけ作成しますので、

数社合併の場合には、相当数の印紙税が必要になります。

 

しかし、例えばグループ間の合併の場合には、

同じ部署で書類を一律管理することもありえますので、

契約書原本は1通あれば足りることも多々あるかと思います。


 その場合には、契約書の末尾を「本書1通を作成し、

甲(存続会社)が保有し、乙及び丙(いずれも消滅会社)は

原本の写しを保有する」とした上で、


作成する原本を1通だけにすれば、

収入印紙は4万円で足りますので、節税になるかと考えます。


5.まとめ


 減資と同様、合併も債権者保護手続が必要であり、

かつそれ以上に多岐に渡る手続が必要なため、

スケジュールには余裕をもって準備することが必要です。

 

また、官報公告等不備があった場合には

再度一からやり直しとなる手続もありますので、

スケジュール作成段階から司法書士等専門家に

相談されることをお勧めします。

次回以降は、合併手続の各ポイントにつき、詳細に解説していきます。

 次回は、「合併手続で個別催告通知を省略する方法」予定しています。