合併手続で個別催告を省略する方法 | 士業・法務担当者のためのマニアックな登記・会社法・債権法改正情報~司法書士・行政書士大越一毅~

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司法書士・行政書士の大越です。



「士業・法務担当者のための会社法入門」



第29回である今回は、前回の告知通り、



「合併手続で個別催告を省略する方法」



です。


合併では、債権者保護手続の一環として、

官報に公告するだけでなく、


原則として、会社が把握している債権者全員

に対し、個別に「合併をする旨」を通知する必要があります。



現在事業をしていない会社や、グループ内でしか

取引をしていない会社であればともかく、

通常の会社であれば、かなりの取引先を有している

でしょうから、結構な負担・コストです。


たとえば、個人を取引相手にしている会社であれば、

その取引(会員)全員が通知対象となる場合もあります。


それを省略する方法として、

いわゆるダブル公告があります!


合併の際には、是非ご検討ください。

もちろん会社分割など他の組織再編手続にも

応用が利く手法ですよ!(^^)!




1.債権者保護手続とは

吸収合併(吸収合併については、会社法入門第28回をご参照ください。)

をすると、存続会社は消滅会社の資産だけでなく負債も承継し、

消滅会社は解散消滅するので、両社の株主だけでなく、

債権者にも多大な影響や不利益を与える可能性があります。

したがって、吸収合併をする場合、両社全ての債権者に対し、

合併について異議等を述べる機会を与える必要があります

(会社法789条、799条)。
これを「債権者保護手続」といいます。

原則として、債権者保護手続は、

合併する旨及び両社の最終事業年度に係る決算公告の開示情報

を記載した公告文を官報に掲載(以下「官報公告」といいます。)し、

かつ会社が把握している債権者に対しては、

公告と同内容の情報を文書で個別催告する必要があります。

そして、官報公告掲載日及び個別催告日の翌日から1ヶ月以上

の異議申述期間を設ける必要があります。

なお、決算公告を毎年行っていない会社については、

合併公告と同時に最終事業年度の決算公告も掲載

する必要がありますので、ご注意ください。


また、子会社を吸収合併する場合等、

略式合併や簡易合併の要件(会社法784条、796条。

略式合併及び簡易合併の詳細については次回解説予定です。)

を満たすケースであれば両社の株主総会決議を省略できるのに対し、

債権者保護手続については、例え債権者が1人もいない場合であっても、

省略することができません

(債権者が1人もいなければ個別催告は当然不要ですが、

1ヶ月の期間を設けた官報公告は必要です。)。


上記は吸収合併について述べた記載ですが、

新設合併の場合も債権者保護手続は必要です(会社法810条)。

但し、新設会社は合併に際して設立するため、

実際に手続を行うのは消滅会社のみになります。

消滅会社で必要な手続は、吸収合併の場合と同様です。


次に述べる省略方法は、新設合併の場合にも利用可能です。



2.個別催告を省略する方法

他方で、上記の通り債権者保護手続自体は省略することはできませんが、

個別催告を省略する方法があります。

それは、定款に公告媒体を「日本経済新聞などの日刊新聞紙」

又は「電子公告」(電子公告の詳細及びメリット・デメリットについては、

会社法入門第26回をご参照ください。)と規定している会社が、

合併公告を官報及び当該公告媒体の双方に掲載する方法です

(会社法789条3項、799条3項)。

債権者が多数いる場合には、

債権者の確定作業や発送事務に手間と時間をかなり要するので、

この方法により個別催告を省略することをお勧めします。


実務的には、少額の債権者には個別催告をしない場合もありますが、

少額とはいえ債権者の一部に個別催告をしない手法は、

合併手続全体に瑕疵が残りますので、原則として好ましくありません。

上記省略方法であれば、法で認められた手続ですので瑕疵はなく、

かつ個別催告漏れをするというリスクがなくなります

但し、個別催告を省略するためには、

定款所定の公告媒体に合併公告を掲載する時点で、

公告方法を「電子公告」等とする旨を登記している必要があります。

したがって、個別催告省略方法の採用を検討している会社

の公告方法が「官報」の場合には、合併公告前に公告方法を変更し、

かつ変更登記申請をしなくてはなりません。

公告方法は、株主総会で定款変更決議を行った時点で効力が生じ、

登記はあくまで対抗要件ですが、登記実務上は上記取扱いになっており、

事前に公告方法変更の登記申請をしておかないと、

適法な債権者保護手続を行っていないと判断され、

吸収合併登記申請が却下されますのでご注意ください。



3.まとめ





債権者保護手続は、上記の通り期間を要するため、

中小企業が合併を行う場合、

債権者保護手続期間満了日の翌日を合併期日とし、

少しでも早く合併の効力を生じさせようとするケースが多々あります。

それでも法的には合併可能です。


しかし、債権者から異議が出た場合、

弁済等の対処を合併期日までに行う必要があるため、

万が一満了日ギリギリに債権者から異議が出た場合には

対処する時間がありません。


したがって、少なくとも数営業日程度は異議申述期間の満了日

から合併期日までの期間を空けることをお勧めします。



次回は、「簡易合併・略式合併の方法」を予定しています。