さて「言霊」についても「魔法」についても理解したところで、いよいよ「魔法の言霊」の作成方法についての解説となるのだが――ごめん、その前に……ひとつだけ重大な注意事項がある。
けっして、もったいぶるつもりはないけど、これだけは絶対に認識しておかないと大変なことになるおそれがあるため、どうしてもお話しさせてもらうことにする。
言霊とは「魔法の注入された言葉」と話したよね。また、その言葉についても、成り立ちや存在について述べた。ところが、この言葉は独特の伝わりかたをする。ボクの著書『魔法の繁盛錬金術(同友館刊)』から、そこを引用しよう。
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言葉は漢字だ。あたりまえだよね。でも、漢字が入ってくるまえから、表現はあったから、その文字が充てられた。発音だけでいうなら「ことば」だ。さらに古代は濁音を使わなかったので「ことは」となる。
この「ことは」は、かならずしも「言」と「葉」が充てられたわけじゃない。「事」と「波」が充てられ「事波」と表現されたこともある。日本の古語が多く残っている古代沖縄弁=琉球語では「事波」と書いて「クトゥヌファ」と読む。つまり「事の波」だ。もちろん意味は言葉のことである。
古代においての「コト」は「言」であり「事」であった。このふたつはまったく未分化だったのだ。つまり「言ったこと」はそのまま「事象そのもの」なわけ。言葉には精妙な言語精霊が宿り、「言」は即「事象」を引き起こしていた。だから言葉は、自然現象からひとの生き死にまで……森羅万象をコントロール魔力を持っていた。
その働きについて、琉球語の「事波」は見事に言葉の魔力を表現している。言葉を発することは、そのまま事象を引き起こす「波」となって機能するということ。
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分かったかな?
言葉はそれ自体も波動で伝わる性質を持つ。というか古代では、わざわざ「言霊」といわなくても言波(事波)であって、事象を引き起こす魔力を持っていた。それに本気で魔法を込めるわけだから破壊力満点だ。
ところが『魔法についての理解』でも白魔術・黒魔術なんて書いたように――魔法は使われかた次第で、善にも悪にもなる。つまり、その存在は中立で、あくまで科学なんだ。たとえば野口英世で知られる細菌学――病原体を発見し、ワクチンを開発すれば、多くのひとを救えるけど……悪しきこころで使えば細菌兵器にもなる。
そして言霊は言葉と同じく波動で伝わるので当然、谺(こだま)を生む。さらに強力な魔法が込められているから、増幅されて還ってくる。このあたりのことを著書『魔法の言霊(東方出版刊)』から引用しよう。
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……前略……「魔法の言霊」は科学である。科学であるがゆえに善悪の判断を持たない。あなたが悪しきこころを持って使っても、良きこころを持って使っても言霊は機能する。つまり、それなりの結果をあなたにもたらすということだ。ところが言霊の特性のひとつは波動であるということ――いつでも谺(こだま)を生みながら、伝達する。だから、いいことも悪いことも、しっかりと、あなたのもとに谺となって還ってくる。さらに困ったこと(よろこばしいこと)に、増幅されて還ってくるのだ。
例えば「ひとを呪(のろ)わば穴ふたつ」という格言がある。この呪うというのは、悪い呪(まじな)いをおこなうことで、呪術行為とともに言霊を発することである。だれかを憎み、その不幸を願って悪いまじないの言霊を発する。典型的なものとしては「丑三つ参り(丑の刻参り)」。丑三つ時に神社などで、頭に鼎(かなえ)やゴトク(コンロの鍋などを載せる台部分)を逆さにかぶってロウソクを灯し、呪文を唱えながら、わら人形に五寸釘を打つあれだ。なんどもいうが、言霊は科学である。怨念がしっかりと籠(こ)もっていれば、この言霊はしっかりと機能し、怨敵を倒すことができる。ところが言霊は科学的に働くため、しっかり谺となって、発した者のもとに増幅されて還ってくる。だから敵を倒すことはできるが、自分も結局は破滅するのだ。それで墓穴がふたつということになる。
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そうなんだ。言霊は科学だから、それ自体は一切、善悪や良否の判断を持たない。あなたがもし、憎いヤツを本気で呪い殺そうと思えば可能なだけのパワーを秘めている。でも、それは(漫画の『宇宙戦艦ヤマト』じゃないけど)波動砲といっしょであり、相手を粉砕したあと、強烈な谺として、あなたをも粉砕してしまうということ。
だから「魔法の言霊」を実践する時、くれぐれも「いずれ増幅された谺(こだま)」が還ってくることを忘れないでほしい。