今年のお正月は、けっこう長時間、箱根駅伝の中継を見ていた
ワタシは陸上競技が好きというわけではないし、どちらかというと関心がないので、オリンピックを別にすれば、短距離でも長距離でも、普段はこうした中継を見ることはほとんどない
しかし、箱根駅伝だけはなぜだか惹かれるものがある
なぜか?
箱根の山中や都内、神奈川県の各所の駅伝コースが、見覚えのある道ばかりだから、というのもその理由のひとつだろうが、箱根駅伝の最大の魅力は、やはり“タスキの重さ”に尽きるのではなかろうか
選手の誰もが、“タスキの重さ”を口にし、その重さが自分一人で同じ距離を走ったときよりも、あきらかに高いパフォーマンス(速いタイム)を発揮させる……
人間というのは、誰かになにかを伝えるときに、100%以上の力が発揮できるようになっているのだろう
武道・武術のワザにも同じことがいえると思う
武道・武術のワザというのは、当たり前だが、相手に伝わらなければ意味がない
だからワザの修錬は、相手に伝えることを第一に磨いていく必要がある
しかし、一口に「伝える」といっても、なかなか一筋縄ではいかないのが実情で、力任せに「エイヤ」とやっても、悲しいぐらい相手にワザは伝わらない……
(ダメージだけなら、力任せでも与えられる場合もあるが、それはワザが効いたわけではない)
要するに、独りよがりの力任せのワザというのは、“タスキの重さ”がないので、パフォーマンスが低いのだろう
駅伝だって、着替えてもなければ、メシも食っていない、まして走る気もない相手にいきなりタスキを投げつけたって、相手が走ってくれるわけがない!
こっちの事情を伸しつけても、それは「伝える」ことにはならないのだ
つまり、武道・武術のワザにおいて、タスキを伝えるということは、
「ワタシの事情=相手の事情」にすることであり、当然の事ながら、それは「相手の事情=ワタシの事情」になるわけで……
そこに組手主体の妙味がある
ワザの稽古のなかで、攻者と守者が「ああでもない、こうでもない」とお互いに試し始めるのは、まさしく「ワタシの事情=相手の事情/相手の事情=ワタシの事情」にするための工夫であり、だからこそ開祖は組手主体を重視し、少林寺拳法の六つの特徴のひとつとしたのではなかろうか
とはいえこれがなかなか厄介で、相手の事情はなかなか変えられるものではない
そうなると選択肢は、相手の事情に自分が合わせるしかないわけで……
つまり相手と調和して、相手がより倒れやすく、蹴られやすく、殴られやすく、誘導していくのがワザのメカニズムってことになってくる
つまり傲慢さを捨てて、謙虚にならないと、ワザは伝わらない!
だから拳禅一如で、心の修行も怠らないようにしないと、ワザの上達もデッドロックに乗り上げる
(自分のワザが伸びない理由もここにあったのか!)
そういえば、読本の「組手主体」の項にも、「技術の上達と人格の向上につながる修錬方法」とはっきり書かれていたはず
相手に「伝える」ことで引き出せる、個人の100%以上の力は、「調和力」とも言い換えられる
その調和力について、開祖は少林寺拳法教範に次のように、次のように書かれている
「共に存在しながら、一見対立し、相反すると見られるものがそれぞれの特性を生かしながら、調和した時にこそ、万物が生成化育する神秘力が発現し、絶対平和の理想境が生まれるのだ」(「力愛不二」の項)
とはいうものの、わかっちゃいるけどなかなか体現できないのが、この調和力
しかしこれをモノにしないと、ブレークスルーは望めそうもないので、今年はこれをひとつの課題として、修行に励むことにしよう
手がかりは……
けっきょく「伝える」努力と工夫に尽きると思う
この場合、「ワザを伝える」といっても二通りあって、
ひとつはワザを相手にかける(効かせる)こと
もうひとつは、後進に技法を伝承すること
駅伝にはゴールはあっても、修行にはゴールはない
開祖から受け継いだタスキは道院長・支部長に限らず、今日入ったばかりの新入門拳士だって受け継いでいることには変わりはない
だったら、そのタスキは次のランナーに渡さなければ、開祖をはじめとする先人達にあわせる顔がないし、それより何よりもったいない
開祖は「少林寺拳法に入門した日が、指導者の第一歩」だと語っておられたが、インプット・オンリーの立場では、タスキのない駅伝ランナーのようなもので、自己の殻を破ることはできない
「自分の帯に色がついたら、白帯の拳士を教えられる」という開祖の訓えがあるとおり、たとえ未熟であっても伝えようと努力することで、自分のパフォーマンスは110%にも120%にもなっていく
だから、上達したいと願う拳士は、後輩拳士をふやすことにも多くの力を注いで欲しい
もちろん、ワタシ自身も拳士増加は今年の最大の目標!
なんといっても、今年は開祖生誕100年の記念すべき年
より多くの拳士と祝って、多くの拳士に開祖のワザと教えを伝えることで、自分自身を向上させる
これが師恩に報いるベストな方法だと信じている
本日の「身体の知能指数」 (PQ=physical quotient) 『110』