1964年、博士過程の学生だった頃、マーティン・セリグマンとスティーブ・マイヤーという人が、「無力感」をもたらすのは、「苦痛」そのものではなく、「苦痛を回避できないと思うこと」だということを、実験で証明しました。
アンジェラ・ダックワース先生の本「やり抜く力(Grit)」には、その後著名な心理学者となったスティーブ・マイヤー先生の先生の対話の箇所があって、以下===部分はその翻訳の引用です。
===
まだ若い時に大きな逆境を経験して、それを乗り越えた場合、それ以降にまた逆境が訪れると対処の仕方が変わってくる。ただし、それは非常に大きな逆境を経験した場合に限られる。
ちょっと困った程度のことでは、脳に変化は起こらない。①
(中略)
「あなたなら困難を克服できる!」と、いくら励ましても、言われるだけではだめ。実際に脳の神経回路の再配線が起きるためには、下位の抑制領域と同時に、制御回路が活性化する必要がある。それは実際に逆境を経験して、それを乗り越えたときに起こる。②
===
① 「かわいい子には旅をさせよ」「若い時の苦労は買ってでもしなさい」というのは、脳科学から見ても、間違いではないのですね。大変だったなあと後で思い起せるような、深く記憶に刻まれるような苦労を体験することは、大切みたいです。
② 「君ならできる!」と、信じて言い続けるのも、効果はあるのかもしれませんが、実際は、言葉で励ますだけではなく、その前に、いくつか細かな困難や問題を乗り越えたという経験をしておくことが、それ以上に重要なようです。
貧困家庭の子は、本人がその自覚しているかしていないかにかかわらず、日常的に大変な目に逢っています。
でも大変さや我慢しなければならない状況を味わうばかりで、それらを乗り越えて、達成感を得た、幸運をつかんだ、という経験を味うことが、あまりありません。
脳がその成功体験を学習する機会がないため、「これならできる」「やったらできる」という気持ちになりにくいのでしょう。
ソルト・パヤタスで2010年~2015年に支援した子ども中学生90名の内、19名、21%に相当する子どもが、学費支援を受けたにもかかわらず、途中で就学をあきらめていきました。
彼らに共通してみられたのは、「あともうちょっとだったのにあきらめた」、「先の希望を持たない」「挑戦しない」そして、周囲の大人は、同じような価値観、職業観、成長過程や心理傾向を持っていたということです。
これまで自分が遭遇してきた子どもたちの、その家族たちの傾向の謎が、脳にあったか、成程と思いました。すべてを脳のせいにするのは、乱暴なのですが、それが原因と考えると、納得する部分も多いのです。
「子どもの頃に、何かを乗り越えた、うまくできたという経験は、ずっと後まで効果を及ぼすと考える。」というスティーブ・マイヤー先生です。
子どもたちが貧困の連鎖から解き放たれるために必要なものは「教育」
そう考えて、奨学金支援を始めました。
同じように大変困難な状況にいても、続ける子と続けられない子が出て、その差はどこから来るんだろうと思いました。
続けられない子に共通の傾向が、続ける子にも傾向が見られました。
学校に行ける機会が与えられたのに、なぜ中途退学?
なぜ?
その疑問からライフスキルに注目し、そのスキルの習得の仕方を知りたい、
方法論が欲しいと思い、効果測定の、児童学の専門家の先生方に入っていただいて
構築事業が始まりました。
まだまだこれも入り口に立ったばかりのようなところですが・・・
心、マインドを見つめるようになって、今、脳への入り口に立っています。
貧困の連鎖の固い鎖の奥の奥にいる、最も手ごわいものに触れた気がします。
でも、そこにこそ最も救われなくてはいけない、問題を複合的に抱えた子どもたちがいるようです。
ライフスキル・・・心と脳。
二つの側面からのライフスキル教育支援が必要なような気がします。
一つは、将来に希望を見出しそれを追求していけるような心構えやスキルを身に付ける、教育支援
もう一つは、幼少期に脳が学習する機会を得られずに成長し、誤解され社会からはじき出されていきがちな子どもたちを見つけて守る支援
その両方を、教育、社会福祉、心理、公衆衛生、自治体、地域の共同体…いろんな人の持っている力を借りて、継続的にできる形が、しくみができないかなと思います。
新しいもの、画期的なものではなく、今あるものを生かして、つなげて。
でも、そんなとりとめのない妄想の前に・・・
まずは、このしつこい風邪を、直さなくては!