【妄想短編小説】 江南(カンナム)の空に | 忙中KARAあり (勤労者のつれづれなる息抜き)

忙中KARAあり (勤労者のつれづれなる息抜き)

音楽のことなど、自分なりの角度から語ってみたいと思います。

DSPと名付けられた囲いの中で5人は過ごしていた。当初DSPを管理していた所長は5人にチャンスを与え、5人は見事にそれを生かして自らの身分を有利なものに変えることに成功した。しかし、所長は病魔に倒れ、後を引き継いだ新所長の管理方針はとてもひどいものだった。

「できるだけ早くここを脱出してやる。」
そういう思いが心の中で大きくなっていった。5人のうち3人にとってはその思いが抑えきれず、脱出を図った。100日間の逃亡の末、結局囲いの中に引き戻されてしまった。囲いに戻ってからはそれまでにも増して模範的な行動を心がけた5人だった。その結果、表彰を受けることもでき、以前に比べ快適な暮らしぶりへと変化した。

そのままの状況が続くかと思われたまま3年が過ぎた。しかし、そんな日々は永遠に続く訳ではなかった。ある朝、うち一人が囲いから抜け出た。「仲間達とはずっと一緒にいたい。しかし、このまま囲いの中での生活を続ける訳にはいかない。」そういうメッセージが残っていた。その事実には世の中が騒然となった。しかし、事態はそれだけでは終わらなかった。その間隙をついてもう一人が脱走を果たしたのだ。

囲いに残された3人には脱走を果たした2人の気持ちはとても理解ができた。しかし、3人は仮釈放までの2年間を引き続き模範的な行動で過ごす道を選んだ。

やがて囲いに残った3人にも仮釈放の時期が訪れた。この2年間というもの、気を引き締めていないと、つい楽しかった5人での生活を思い出してしまう。そんな気持ちを封印し、目の前のなすべきことだけに集中することだけを心掛けてきた。それでもそんな日々もようやく終わりを告げた。

仮釈放の日。囲いから外の世界へ踏み出す。空気を深く吸い込んでみる。空気は囲いに入る前と違っているようでもあり、変わっていないようでもあった。

「ようやく自由の身だ。」解放感に包まれる。にもかかわらず、これからどうすればいいのか分からず、茫然とする気持ちの方が強い。とりあえず、朝食をとるために小さなコーヒーハウスに入る。コーヒーとパンケーキを注文する。自分のペースでゆっくりと朝食をとるのは本当に久し振りだ。やがてウエイトレスがコーヒーを自分の前に運んで来る。

湯気を上げるコーヒーを前に、仮釈放の日が来たら読むようにと、以前に脱出した2人から届いた手紙を開いてみる。見慣れた文字のはずなのに、こんなカワイイ字だったんだ、と改めて思う。ひどく時が過ぎた気がする。もちろん脱出した2人からだとは分からないように、そして内容も5人にしか分からない書き方で記されている。

「やっと時が来ました。私はこの時を身を震わせるほど待っていました。

5人での生活は素晴らしい。だけど囲いの中では本当の私ではいられない。そんな思いにずっと苛まれて(さいなまれて)いたのです。

でも、今ならようやく本当に5人でやりたかったことを実現できるのです!心からこの日を待っていました。何度も夢に見たんです。5人で手をつなぐ夢を。本当ですよ!

江南のあの店で待ってます。早く会いたくて、待ちきれません。だって5人は永遠に1つなんですからね!」

心が震えるのを抑えることなどできるはずがない。コーヒーハウスを飛び出し、タクシーをつかまえる。店までの道のりが歯がゆい。それでもほどなく店の前にタクシーが滑り込む。

約束のその店の前に立つ。深呼吸を一つ。ドアのノブに手をかける。ドアが開く。店に足を踏み入れる。店内を見渡す。隅のダークな塗装を施されたマホガニーのテーブルの周りには懐かしい、心の底から信頼し合った仲間の顔がある。頬を伝う涙を止められるはずなどなかった。

ようやく5=1になれたね。あの時の約束はこういう形で実現できたんだね。


ついこんなことを妄想してしまうんです。

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