六
昔おとこありけり。女のえうまじかりけるを、としをへてよばひわたりける
を、からうじてぬすみいでゝ、いとくらきにきけり。あくた河といふかはをゐていきければ、くさのうへにをきたりけるつゆを、かれはなにぞとなむおとこにとひける。
…
やうやう夜もあけゆくに、見ればゐてこし女もなし。あしずりをしてなけどもかひなし。
しらたまかなにぞと人のとひし時つゆとこたへてきえなましものを
…
伊勢物語に男が女を盗んで野に逃げる話がある。草の上のつゆをこれは何かと女が問う。
鬼がいて、その女を一口で呑んでしまう。
女は<つゆ>を白玉かなにかと問うた時、<露>と言ったのにあっけなく消えてしまった。
○鬼は基経、女は二条の后、男は業平という。
このゝはぬす人あなりとて、火つけむとす。女、わびて、
むさしのはけふはなやきそわかくさのつまもこもれり我もこもれり
とよみけるをきゝて、女をばとりて、ともにゐていにけり
○武蔵野の平林寺には、野火止の業平塚がある。
新座平林寺 N35度47分23.45 E139度33分37.11
この野火止も、N35度47分の金剛ライン。
露
773おどろ野や露にされたる蛇の衣
774露に実の入て飜るゝ月夜かな
775露深し草に戸ざゝぬ庵の留守
776除け合うて二人ぬれけり露の道
777露寒し衣の勧化まだ出来ぬ
778露の音虫の音色に替りけり
779秋の寂尽せぬ露の紀念かな
峰雲ぬしの愛子をかへらぬ旅に送られしときゝて
780秋の寂つゆも谺となる夜哉
781乾く間もなく秋くれぬ露の袖
…
<露>に骨はないが、井月の露は骨太である。