ナポリに死す | 湘南逍遥

ナポリに死す

昨日の大晦日、朝からテレビを眺めながら掃除をしていた。たまたまやっていた番組が「孤独のグルメ」だった。もちろん再放送。掃除の合間に見る料理はころころと変わっていた。
どういうわけか井之頭五郎(松重豊)が美味しそうに食べていたナポリタンが頭の片隅に残ってしまった。
掃除を終えて買い物と休息を兼ねて、某ショッピングモールへ出かけた。
ショッピングモールのフードコートで昼食をとることにしたのだが、どうもどれにも触手が伸びずに難儀していた。そもそもセルフサービスなのに長い行列に並ぶのが嫌いな性分である。味よりも並ばないで済むところを選ぶタチだが、大晦日ということで、どこもそこそこの行列である。ふと目にとまったのが、「鉄板ナポリタン」。ふと「孤独のグルメ」がよみがえり、その列に並んだ。

「孤独のグルメ」のナポリタンはかなり炒めた感じがして、それが「鉄板」とリンクしていた。今日はそういうナポリタンが食べたいと思っていた。ブーブーと呼び出しブザーが鳴って、取りにいくと「かなり炒め」ではなくて「やや炒め」の感じで、少しがっかりとした。私はなんでもアツアツが好きなのである。
ところがこの「鉄板ナポリタン」には面白い仕掛けがあった。モッツァレラチーズが仕込んであって食べ進めていくうちにチーズが溶けだして糸をひく。「ほお、これはこれは」と楽しみながらペロリと完食した。
私はラーメンでもカレーでもそうだが、完食後に水をゴクゴクと飲み干すのが習慣になっている。特に熱いものを食べたあとの冷たい水の清涼感はたまらない。
「鉄板ナポリタン」を食べ尽くして、水をゴクゴク。しかし、昨日は至福の時間が地獄の時間に変わってしまった。水が気管に入って咽るやら咳込むやら…。目に涙、鼻からニョロリと出てくるスパゲティの麺。しかもなかなか収まらず周囲も怪訝な目を向け始めた。
これだけ咽たのは人生で初めてだったかも知れない。やがて目の前が暗転し始める。私は肺気腫を患っているから肺活量もそれほどない。次第に息苦しくなり、これはもうダメかと諦めかけたところで、ようやく咳が収まった。

「ほお、助かった」と安堵したときに思い浮かんだのが「ナポリに死す」であった。
大晦日にナポリで死すか…。
ナポリから生還した新年。さて、今年は生まれ変わったつもりで頑張ろうと思う。