灯台下暗しだったが | 湘南逍遥

灯台下暗しだったが

人間やって六十余年、湘南・大磯で暮らして三十余年。灯台下暗しの体験をした。
まずは無罣庵というギャラリー。大磯町図書館の路地を入った先にあるのだが、こんなところがあったとはまったく知らなかった。なんでも中村さんという方が運営する私設公民館なのだとか。
壁にはぎっしりと蔵書が並び、ピアノも置いてある。ここでレコード鑑賞会や読書会、コンサート、陶芸家の作品展などを催しているのだとか。

たまたま近所を散歩していて掲示板に貼ってあった「暮らしの記憶 上映会」を見て無罣庵を知った。
ここで灯台下暗しが続く。
無罣庵で上映される記録映画が「越後奥三面 ふるさとは消えたか」だったのだが、ムムッ、奥三面といえば新潟県村上市を流れる三面川(鮭で有名です)の遥か上流にある集落ではないか。なにが"灯台下"かというと村上市は私が高校を卒業するまで暮らしていた町で、高校時代には奥三面から通う(といっても、とてもじゃないけど通えないから市内で下宿していましたが)クラスメイトもいたので地名には馴染みがあったということ。クラスメイトの下宿先でコークハイを煽って、急性アルコール中毒になりかけたのは今となっては懐かしい思い出である。
それではなにが"暗し"かというと、その奥三面についてなにも知らなかったと、今回の無罣庵での上映会に参加して痛感したこと。奥三面がマタギの里であるというくらいのことは知ってはいた。だが、奥三面が旧石器時代から縄文時代にかけての大遺跡地帯であったこと、平安時代に集落があったことはまったく知らなかった。もしかすると遥か昔はあの新潟北部において先進地域だったのかもしれないのだ。
いつか訪ねてみたい場所になりそうなのだが、その思いは儚い。なぜなら奥三面はダム計画で湖底に沈み、1985年に閉村となったからだ。なんちゃら遺産流行りの昨今、「越後奥三面」を観て、なんとももったいないことをと思ったのは私だけはないだろう。

それにしても奥三面のことなどすっかり忘れていたが、四十余年を経て、遠い湘南・大磯で奥三面のことを知ることになるとは奇妙に感慨深いものである。
「越後奥三面」はクラウドファンディングで高精細デジタルリマスター化プロジェクトが進められて、来る11月27日にアテネ・フランセ文化センターで世界初上映されるのだとか。
私のような"灯台下暗し"の体験とは関係なく、素晴らしい内容なのでぜひご覧いただきたい。