つい最近、日本は海外に武器を輸出できる国になったことをご存じでしょうか?
今回は、それが何を意味するのか、そして、そもそも軍事を強化することにはどんなメリット・デメリットがあるのかを解説します。
日本政府は4月21日、戦車やミサイルといった殺傷能力のあるものを輸出できるようにルールを変更しました。
これは、第二次世界大戦後、平和を謳ってきた日本にとって大きな方向転換となります。
そもそも世界の軍事費は2024年で2.7兆ドルもの金額でした(SIPRI. (2026))。
一方で、同年の研究によると、2030年までに飢餓を終わらせるには年間930億ドルが必要とされています(Braun et al (2024))。
すると、世界の軍事費は、飢餓を救う費用の29倍もあることがわかるのです。
日本の軍事費もここ数年で激増しています(防衛白書(2025))。
今に始まったことではありませんが、大衆は「軍事=悪」という結論に終始しやすいです。
もちろん、私も兵器に対する反対自体には感情としては強く賛成します。
人を傷つけ、殺す道具のために大金を費やすことほどばかげたことはないでしょう。
しかし、現実は理想や綺麗事だけではうまくいかないという前提があります。
すると、「軍事=悪」という素朴な考えを正義とした場合、かえって問題が悪化するリスクもあるのです。
それも踏まえて、今回は世界情勢と合わせて軍事について考えていきましょう。
軍事費を減らすメリット
ひとまず、軍事費を減らすことのメリットから考えてみます。
重要な点は、軍事費が減らされれば、その分だけ教育や福祉に使えるようになることです。
しかも、軍事費は莫大であり、私たちの税金の一部が戦車やミサイルに使われているというのは複雑な心境になります。
戦車をつくるくらいなら、私たちの生活費の負担を減らしたいとも思えるでしょう。
また、増額した軍事費は、海外への輸出にもつながるわけですが、もしかしたら、それが原因でうらみを買ったり、関係悪化が深刻化したり、最悪の場合、戦争に巻き込まれたりするかもしれないのです。
実際に、すでに中国やロシアは、今回の日本の方向転換について、強い反発をしています(あなたたちが言えることですかね、とも思いますが…)。
となると、やはり軍事費はただの無駄で、武器輸出もリスクを生むだけなのでしょうか?
軍事費を減らすデメリット
一方で、現実的に考えると、違った視点も見えてきます。
というのも、実際には、平和を望む国ばかりではないという前提があるからです。
つまり、まずは軍事費について考えると、その費用を減らすというのは、国の軍事が弱体化するということを意味します。
国際的には弱い立場に置かれたり、最悪の場合は領土を奪われたりしやすくなるということです。
よく聞く「日本は安全」という言葉は、国内の治安を考えるとある程度正しいかもしれませんが、周辺の国を考えるとそうとも言えません。
ウクライナ侵攻をしているロシアは、日本のすぐ北にある隣国です。
武力で領土を拡大しようとする国が隣にあることは改めて考えるとぞっとします。
さらには、すぐ西の中国は、台湾を武力を用いてでも自国のものにすることを堂々と宣言しているのです。
すると、有事の時には、台湾と関係を築いていて隣国である日本、そして日本に基地を置くアメリカが介入せざるをえません。
そうなった場合、中国が日本の基地を攻撃することはほとんど確実ではないでしょうか。
次に、武器輸出についても考えてみます。
ここでの重要な補足としては、たしかに、日本が武器を輸出することによって戦争に巻き込まれる可能性もあるかもしれませんが、実は戦争中の国には(原則として)武器の輸出はできないようになっているのです。
これは争いに極力関わらないようにした結果の選択でしょう。
そして輸出のメリットとしては、衰退ぎみだった軍事産業が活性化する点にあります。
これは日本の防衛力を高めることを意味するため、国が危ない目に遭うことから身を守ることに直結するのです。
もちろん、輸出による経済的な利益も大きいと言えます。
最後に
今回は、軍事費、そして日本の武器輸出について、メリットとデメリットの両方を現実的に解説しました。
単純な感情論から一歩先に進むことにつながれば、生産的な議論ができると私は考えています。
最後に歴史における軍事費を振り返ると考えさせられるものがあります。
歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリは、このテーマについて以下のように述べています。
ローマ帝国は予算の約50~75パーセントを軍に費やし、17世紀後半のオスマン帝国では、その数字は約60パーセントだった。
過去数十年間の国家予算を見れば、これまでに書かれたどんな平和主義の論文を読むよりも大きな希望が湧く。
21世紀初めには、世界各国の政府が軍事に支出する金額の平均は、予算の7パーセントにすぎない
つまり、文明史での大国が50%や60%といった膨大な予算を軍事に費やしていたのに対して、21世紀初頭では、世界の平均が7%程度だったということです。
私たちが、その分医療や教育や公共サービスの恩恵を受けてきたことは、歴史的にはけっして当たり前ではないのです。
とはいえ、ハラリ氏は現状に大きな懸念を示しています。
きわめて重大な一線を超えてしまったのが、2022年の初めだ。(中略)ロシアによる攻撃のせいで、ウクライナばかりではなくヨーロッパ諸国の多くまでもが、軍事予算を増大させざるをえなくなった。
近年は、「力で他国を支配する」という姿勢が目立つようになっています。
ロシアがその最大の例です。
もしもロシアがこの戦争に勝てば、それは単にロシアが大きくなることを意味するのではなく、「力での領土拡大が”成功”した」というメッセージになってしまうのです。
これは台湾有事のリスクがある中国を考えても恐ろしい事態です。
さらに悪いことに、そんな中で、世界で最大の大国であるアメリカも、ベネズエラを力で転覆を図って”成功”し、その直後にイランへと攻撃をしかけています。
力ずくで他国を望み通りに変えようとするこうした行為は、すでに世界に対する最悪のメッセージとなっているのです。
【参考】
「武器」輸出解禁、日本の安保政策は大きな転換点…首相「防衛装備面で支え合うパートナー重要」 : 読売新聞
焦点:日本の武器輸出緩和、欧州や東南アが関心 米国依存低減へ | ロイター
日本政府、武器輸出規制を緩和 戦後平和主義からの転換
【筆者について】
―加藤将馬:著者、講演家、幸福学&ビッグヒストリー研究家
・加藤将馬の著書はこちら
・YouTubeはこちら
【著書の紹介】
自殺大国ニッポン: メンタルヘルスと幸福学で分かる日本最大の課題
紙の書籍1188円→電子書籍0円!(今後変更の可能性あり)
「身体的には平和になったものの、精神的には非常に危険な国である」というのが今の日本の実態です。そんな中で、いったい何が起こっていて、どのような対策がされているのか。それが本書の1つ目のテーマです。
そして、最大のテーマは「そんな日本は、いかにして幸せな社会になることができるのか」というものです。ある著名な論文では、「アメリカや日本は短期間で何倍も経済成長したのにも関わらず、幸福度は上がらなかった」という衝撃的な研究結果が公開されました。国連による「世界幸福度報告」では、「北欧の国々は幸福度が一貫して高い」「中南米諸国は、経済力に対して幸福度が高い」といった考察がまとめられたことがあります。果たして、これらは本当なのでしょうか。そして、本当ならば、果たして日本は、いかにして幸せな国になることができるのでしょうか。
【1時間で読める要約版】宇宙と人類の壮大な歴史-ビッグヒストリー
紙の書籍773円→電子書籍0円!(今後変更の可能性あり)
宇宙と人類、138億年ものがたり ―ビッグヒストリーで語る 宇宙のはじまりから人間の未来―
本書は、宇宙と人類の歩みを考察する一冊です。
「宇宙が生まれた頃はどのような姿だったのか?」「なぜ数十万年も狩りをしていた人間は、今では宇宙進出を始めているのか?」「気候変動やAIなど、これからの人間社会はどうなってしまうのか?」といった大きな問いについて説明します。
そして、本書の最大のテーマは、「人間は文明を発達させて地球の覇者となったのにもかかわらず、なぜ世界には数多くの自殺者がいて、不幸が消えていないのか」というものです。
138億年にわたる壮大な物語を堪能していただくと同時に、人間社会のあり方にまで思考を巡らせてもらうことを本書では目的としています。そして、私がなぜ本書を書き、ビッグヒストリーを通じて何を伝えたいのか。ぜひ、最後まで見届けていただけると幸いです。


