第11回 株の根本のでっぱりが気になる | 他院での自毛植毛の失敗、経過など写真付きで解説

他院での自毛植毛の失敗、経過など写真付きで解説

自毛植毛の失敗で悩んでいる方 植毛のやり直しは任せてください
植毛はオーダーメイドでありその人に合った治療が必要です。
何より大事なことは、正しい知識と技術を持って治療することです。

写真は当院で約10年前に植毛を受けた方の移植部分のクローズアップです。株の根本が出っぱって鳥肌状態になっているのが分かると思います。このような状態をテンティング(テント状にみえるという意味です)といいます。
テンティングは第3回で取り上げたピットスカーorピッティングと逆の現象で、株の根本が頭皮表面からもり上がった状態です。私が最初に報告したこの状態は施術の“失敗”と呼ばれるにはあまりに微妙な合併症といえます。




なぜこうなったのか?

当時この状態についての情報がなかったために施術を受けた方の了解のもとに国際毛髪外科学会(ISHRS)の学会誌“Hair Transplant Forum International”の編集者にこの写真を送り、同じような症例があったのか、またその場合の対処法について問い合わせました。その後多くの情報がよせられ、それらをもとに治療方針を検討して2回目の植毛手術を行って改善したというわけです。
なおこの時に初めてアデレード(オーストラリア)のマルゾラ医師が“テンティング:tenting”という名称を用いて、2006年に英文教科書にその用語が登場しました。
回答のあった16名の世界的に有名な植毛医達からの情報を紹介します。

(1)テンティングの経験の有無について
・今まで経験したことがないとする医師 2名
・今までに経験したことがあったとする医師 14名

(2) その原因について
・施術を行った側によるとする医師 4名
・施術を受けた方の体質によるとする医師 10名
・施術を行った側と施術を受けた方の体質の両方によるとする医師 2名

でした。

メルボルン(オーストラリア)のシール博士らはこれは植えつけ部分の肥厚性瘢痕つまり、この状態は治癒過程の受けた方の体質により起こるのであって、これを術前に予見することは不可能であるとしています。反対に受けた方の体質によるものではなく、株の植えつけが浅すぎるために起こるという施術を行った側の技術的原因だとする意見もありました。
ただ浅い植えつけを行っても普通はテンティングは起こりません。
私は『株の浅い植えつけは患者の体質によると思われるテンティングのリスクを大きくさせる』と考えています。
気を付けて過去の症例を検討すると程度の差はあってもこのような状態は相当数存在したはずですが、程度が極端でなければそれに気がつかなかったのではないかと思います。鳥肌というようにもともとヘアはそのように生えているからです。





予防策は?

これを完全に予防することは不可能ですが、以下が注意点になります。

・注射針やブレードはその株に合わせた大きさのものを使用する。また植えつけ終了時にポッピングによる株のもち上がりを確認し、矯正することを面倒がらずに行う。

・ヘアラインを下げたり、こめかみへの植えつけなど、ドナー部と移植部の皮膚の厚さがかなり違うことによるミスマッチを起こしやすいケースには特に注意する。

・睫毛などごく薄い皮膚に植えつける場合には、スリットを刺しこむ角度を小さくして移植毛が十分深く移植部に入るように努める。


改善策は?

・今まで経験した他院のものも含め4例のテンティングと思われるケースのうち2例は術後1年後には正常に近い状態になりました。自然に治ることも多いので1年間は経過を見た方が良いと思います。

・追加の植毛により密度が上がるとテンティングは目立たなくなることが多いのですが、その時には前回よりも深めに株を植えこむように心がけます。

・植毛でも改善しない場合には生え際の前列はテンティングに対して以下の方法で改善を試みます。
  マイクロ電動モーターによって出っぱり部分を削る
  レーザーによって出っぱり部分を削る
  ステロイド外用療法
  ステロイドの局所注射